M&Aと聞くと「会社を丸ごと買う、売る」というイメージを持つ方が多いかもしれませんが、実際の手法は、株式譲渡、事業譲渡、合併、会社分割など、さまざまです。手法によって、手続きの重さ、引き継ぐリスクの範囲、税金の扱いが大きく変わるため、どの手法を選ぶかが、M&Aの成否と手取り額を左右します。
この記事では、中小企業のM&Aで使われる主な手法を、それぞれの特徴、メリット、デメリット、税務上のポイントとあわせて解説します。最後に、自社に合った手法の選び方も紹介します。
なお、法律や税制は改正されることがあります。この記事は2026年10月時点で、e-Gov法令検索や国税庁などの公表情報をもとに作成しています。実際の手続きの前には、最新の情報を確認し、専門家にご相談ください。
Contents
M&Aの手法は大きく3つのグループに分かれる

M&Aの手法は多数ありますが、整理すると、次の3つのグループに分けられます。
- 株式を動かす手法:株式譲渡、株式交換、株式交付、株式移転、第三者割当増資、TOBなど
- 事業や会社そのものを動かす手法:事業譲渡、合併、会社分割
- 資本関係を結ぶ手法:資本提携、MBOなど
中小企業のM&Aでは、手続きが比較的シンプルな株式譲渡が最も多く使われます。そのうえで、一部の事業だけを引き継ぎたい場合や、リスクを切り離したい場合は、事業譲渡や会社分割が選ばれます。
株式を動かす手法

株式譲渡
株式譲渡は、売り手の株主が持つ株式を、買い手に売る手法です。会社そのものは、そのまま残り、株主だけが入れ替わります。契約は、株式譲渡契約書を交わすことが中心で、手続きが簡単な点が特徴です。
- メリット:手続きが簡単で、会社の許認可、契約、従業員の雇用関係が、原則としてそのまま引き継がれる
- デメリット:会社の債務や、過去のトラブル、簿外債務も、まとめて引き継ぐリスクがある
- 注意点:株式に譲渡制限がある会社では、株式を譲渡するために、会社の承認の手続きが必要になる
売り手が個人の場合の税金は、国税庁のタックスアンサーによると、非上場株式(一般株式等)の譲渡益は、他の所得と分けて計算する申告分離課税で、税率は20%(所得税15%、住民税5%)です。このほか、復興特別所得税(基準所得税額の2.1%)も、あわせて申告し、納付します。
株式交換
株式交換は、買い手の会社が、売り手の会社の株主から株式を受け取り、その対価として、買い手の会社の株式などを渡す手法です。これにより、売り手の会社は、買い手の完全子会社になります。
- メリット:現金が不要で、買い手の資金負担が小さい
- デメリット:手続きが複雑で、専門家の支援が必要。売り手は、買い手の株式を受け取るため、現金を受け取れない
株式交付
株式交付は、会社法第774条の2に基づく制度で、買い手の会社が、他の会社を子会社にするために、その会社の株式を取得し、対価として、買い手の株式を交付する手法です。株式交換とは異なり、売り手の会社を完全子会社にしなくても、子会社化できます。ただし、手続きは複雑で、税務上の取扱いも、改正されることがあるため、実際に使うときは、税理士に確認してください。
株式移転
株式移転は、1つの会社が、新しく親会社を設立し、その親会社に、自社の株式を移転する手法です。持株会社(ホールディングス)を作る場合などに使われます。現金は不要ですが、手続きが複雑で、専門家の費用もかかります。
第三者割当増資
第三者割当増資は、買い手が、売り手の会社に出資して、新しい株式を引き受ける手法です。会社に資金が入るため、事業の資金に充てることができます。一方で、買い手が経営権を持つには、多額の資金が必要になります。
株式公開買付け(TOB)
TOBは、上場会社の株式を、あらかじめ買付けの期間、価格、数量を公表して、市場の外で買い付ける手法です。主に上場会社が対象となるため、中小企業のM&Aで使われることは、あまりありません。
事業や会社そのものを動かす手法

事業譲渡
事業譲渡は、会社の事業の全部、または一部を、買い手に譲る手法です。売り手の会社は、そのまま残ります。
- メリット:欲しい資産や事業だけを選んで引き継げる。簿外債務など、不要な債務を引き継ぐリスクを避けやすい
- デメリット:取引先との契約、従業員の雇用、許認可などを、個別に引き継ぐ手続きが必要で、手間がかかる
会社法第467条は、事業の全部の譲渡や、事業の重要な一部の譲渡を行うときは、効力が生じる日の前日までに、株主総会の決議によって、契約の承認を受けなければならないと定めています。重要な一部の譲渡かどうかは、譲り渡す資産の帳簿価額が、総資産額の5分の1(定款で下回る割合を定めた場合はその割合)を超えるかどうかが、判断の基準になります。
税務の面では、事業譲渡で受け取った代金は、売り手の会社の収入となります。経営者が、個人として資金を受け取るには、会社から、役員報酬や配当、退職金などの形で、資金を移す必要があります。
合併
合併は、2つ以上の会社が、1つの会社になる手法です。ほかの会社を吸収する「吸収合併」と、新しい会社を設立して統合する「新設合併」があります。
- メリット:現金が不要で、グループの組織を、1つにまとめられる
- デメリット:消滅する会社の権利と義務を、すべて引き継ぐ。債務や、過去のトラブルも含まれる
会社分割
会社分割は、会社の事業の一部、または全部を、他の会社に承継させる手法です。既存の会社に承継させる「吸収分割」と、新しく設立する会社に承継させる「新設分割」があります。M&Aでは、売りたい事業だけを、新しい会社に切り出し、その新会社の株式を譲渡する方法がよく使われます。
- メリット:売り手が、不要な事業や、リスクのある事業を切り離せる。契約などを、包括的に承継させられる
- デメリット:手続きが複雑で、債権者保護の手続きなどが必要になる。承継する事業に、債務や問題がある場合は、買い手に影響する
合併や会社分割と、税務上の「適格」
合併や会社分割などの組織再編には、法人税法の「適格組織再編成」という考え方があります。要件を満たす適格組織再編成であれば、移転する資産の譲渡損益に、その時点で課税せず、繰り延べられます。要件は、再編する会社同士の関係(完全支配関係、支配関係、共同で事業を行うための再編など)に応じて決まっているため、取引の前に、税理士に確認することが大切です。
資本関係を結ぶ手法

資本提携
資本提携は、お互いの株式を持ち合ったり、共同で会社を設立したりする手法です。会社を丸ごと買うわけではなく、関係を深めながら、リスクを分けられます。
マネジメントバイアウト(MBO)
MBOは、会社の経営陣が、自社の株式を買い取って、経営権を取得する手法です。経営の自由度が高まり、意思決定が速くなります。一方で、買取りの資金を、金融機関からの借入などで、用意する必要があります。
手法ごとの比較

主な手法の特徴を、表にまとめます。
| 手法 | 現金の要否 | 簿外債務などの引き継ぎ | 手続きの難しさ |
|---|---|---|---|
| 株式譲渡 | 必要 | 引き継ぐ | 比較的簡単 |
| 株式交換 | 原則不要 | 引き継ぐ | 複雑 |
| 事業譲渡 | 必要 | 選んで引き継げる | 個別の手続きが多い |
| 合併 | 原則不要 | 引き継ぐ | 複雑 |
| 会社分割 | 原則不要 | 承継する範囲による | 複雑 |
この表は、一般的な傾向を示すもので、実際の取引の条件によって、変わることがあります。
M&A手法の選び方

手法を選ぶときは、次の視点で、整理します。
何を引き継ぎたいのか
会社全体を引き継ぐなら、株式譲渡や合併が向いています。事業の一部だけを引き継ぐなら、事業譲渡や会社分割が向いています。
簿外債務などのリスクをどう避けるか
買い手は、会社を丸ごと引き継ぐ手法では、簿外債務や、過去のトラブルも、一緒に引き継ぎます。事前に、デューデリジェンス(事前調査)を丁寧に行い、リスクを把握することが重要です。リスクが読みにくい場合は、事業譲渡や会社分割で、必要な部分だけを引き継ぐ方法も検討します。
資金をどう用意するか
現金が十分にない場合は、株式交換や合併など、現金を使わない手法も、選択肢になります。ただし、売り手が現金を受け取れない点に、注意が必要です。
売り手の手取りと、税金
売り手の経営者にとって、株式譲渡は、譲渡益に20%台の税率で課税されるため、比較的税金の見通しが立てやすい手法です。事業譲渡では、会社の側で課税されたあとに、個人に資金を移すときにも、課税が生じるため、全体の税負担を、試算して比べる必要があります。
許認可や契約の引き継ぎ
許認可が必要な事業では、手法によって、許認可を引き継げるかが変わります。株式譲渡は、会社そのものが残るため、許認可を維持しやすいのが特徴です。事業譲渡は、許認可の再取得が必要になることがあります。
M&Aの一般的な流れ

手法が決まったあとの流れは、一般的に、次のように進みます。手法によって、細かい手続きは異なります。
相談と準備
M&Aの目的、希望する条件、スケジュールを整理します。売り手は、会社の決算書や、契約書、従業員の状況などの資料を、準備しておきます。
秘密保持契約と、情報の開示
相手先の候補が見つかったら、秘密保持契約を結んでから、会社の情報を開示します。情報が従業員や取引先に早く伝わると、業務や取引に影響が出るおそれがあるため、秘密の管理は、特に重要です。
基本合意とデューデリジェンス
大まかな条件を、基本合意として確認したうえで、買い手が、法務、財務、税務、労務などの面から、会社を調査します。この調査は、短い期間に、多くの資料の提供や質問への対応が求められるため、売り手も、事前に準備しておくと、スムーズです。
最終契約とクロージング
調査の結果を踏まえて、価格や条件を調整し、最終の契約を結びます。契約には、譲渡後の責任や、競業の禁止などの重要な項目が含まれるため、内容を十分に確認します。その後、株式や事業の引き渡し、代金の支払いが行われます。
譲渡後の統合
買い手は、会社の運営や、従業員、取引先との関係を、引き継いでいきます。経理や税務の体制を整えることも、重要な作業です。
M&Aの手法を選ぶときによくある失敗

手法の選び方を誤ると、思わぬ負担が生じます。よくある失敗を、整理します。
失敗1:手続きの簡単さだけで、手法を決めてしまう
株式譲渡は手続きが簡単ですが、買い手にとっては、簿外債務などをまとめて引き継ぐ手法です。手続きの手軽さだけで決めると、あとから、想定外の債務が見つかることがあります。デューデリジェンスの結果によっては、事業譲渡や会社分割に、切り替えることも検討します。
失敗2:税金を試算しないまま、条件に合意してしまう
同じ売却額でも、手法によって、売り手の手取りは変わります。特に、会社の資産の含み益が大きい場合や、役員退職金を支払う場合は、税負担が大きく変わります。条件に合意する前に、手法ごとの税負担を、試算しておくことが大切です。
失敗3:許認可や契約の引き継ぎを、確認していない
事業譲渡や会社分割では、許認可や、取引先との契約を、引き継げない場合があります。引き継ぎに時間がかかると、事業が止まるおそれがあるため、事前に、所管の官庁や取引先に、確認しておきます。
失敗4:従業員への説明が、遅れる
M&Aでは、従業員の雇用や、労働条件の扱いが、重要な論点です。手法によって、雇用の引き継ぎの方法が異なるため、従業員への説明のタイミングと内容を、あらかじめ計画しておきます。
専門家に早めに相談することが大切

M&Aの手法は、会社法、税法、労務、許認可など、多くの分野に関係します。どの手法が適切かは、会社の状況、売り手と買い手の希望、税金、スケジュールによって、変わります。手法を決める前の段階から、税理士や公認会計士などの専門家に相談し、複数の手法の税負担や、リスクを比べておくことをおすすめします。
M&Aと事業承継のお悩みはストラーダグループへ

ストラーダグループでは、税理士や公認会計士などの専門家が連携して、中小企業のM&Aや事業承継をサポートしています。M&Aの手法の選択や、税務面の検討、デューデリジェンス、買収後の経理や税務の支援まで、一貫してご相談いただけます。初回のご相談は無料です。お気軽にご相談ください。
※本記事は、2026年10月時点の情報をもとに作成しています。法律や税制の内容は変更されることがあるため、手続きの前に、e-Gov法令検索、国税庁などの公式情報をご確認ください。




