会社を設立するとき、「資本金を、大きく見せたい」と考える経営者は、少なくありません。取引先や、金融機関に、会社の規模や、信用力を示したいからです。しかし、手元に現金がない場合に、「資本金だけ、大きく見せる方法はないか」と考えるのは、危険です。方法を間違えると、法律に違反するおそれがあります。
この記事では、資本金を大きくしたいが、現金が足りない場合に、取れる方法と、やってはいけない方法を、整理します。具体的には、現物出資の仕組みと、手続き、税金の注意点、いわゆる「見せ金」の危険性、資本金の額が、信用や税金に与える影響を、解説します。
なお、制度や条文は、改正されることがあります。この記事は、2026年10月時点で、e-Gov法令検索、国税庁などの公表情報をもとにしています。実際に手続きをするときは、最新の情報を確認し、専門家にご相談ください。
Contents
資本金を大きく見せたい理由と、その影響

資本金が大きいと、信用につながる場合がある
資本金の額は、会社の登記事項証明書に記載され、取引先などが確認できる情報です。大きな会社と取引をするときには、資本金の額を、確認されることがあります。会社によっては、取引先の選定の基準として、資本金の額を設けている場合もあります。資本金が大きいことは、会社の信用を、判断する材料の一つになります。
ただし、資本金だけで、信用は決まらない
資本金の額は、会社を設立したときの、出資の額です。設立後に、事業に使えば、会社の財産は、変わっていきます。取引先や、金融機関は、資本金の額だけでなく、決算書、事業の内容、経営者の経験、支払いの状況なども、総合的に見ます。資本金が大きくても、事業の実態がなければ、信用は得られません。
資本金が大きいと、負担が増える面もある
資本金の額が、大きくなると、次のような負担が、生じる場合があります。
- 登録免許税:株式会社の設立登記は、資本金の額の1,000分の7(最低15万円)
- 消費税:資本金が1,000万円以上の新設法人は、設立1期目から、課税事業者になる(消費税法第12条の2)
- 法人住民税の均等割:資本金等の額に応じて、金額が上がる区分がある
資本金の額は、信用と、税金などの負担の、バランスを見て、決める必要があります。
方法1:現物出資を利用する

現金がなくても、資本金を大きくする、正規の方法の一つが、「現物出資」です。現物出資とは、金銭以外の財産を、会社に出資することです。たとえば、パソコン、機械、車、不動産、有価証券などを、出資できます。
現物出資の手続きと、注意点
現物出資を行う場合は、次のような点に注意が必要です。
- 定款への記載:会社法第28条は、金銭以外の財産を出資する者の氏名、その財産とその価額、その者に割り当てる株式の数などを、定款に記載しなければ、効力を生じないと定めています
- 財産の名義変更:個人名義の財産を、会社の名義に、変更する必要がある
- 価額の調査:出資する財産の価額が、適正かどうかを、調べる必要がある
検査役の調査が、不要になる場合
会社法第33条は、現物出資の価額を調べるために、原則として、裁判所が選ぶ検査役の調査を受けることを求めています。ただし、次の場合は、検査役の調査が、不要になります。
- 現物出資の財産について、定款に記載した価額の総額が、500万円を超えない場合
- 市場価格のある有価証券について、定款に記載した価額が、市場価格を超えない場合
- 定款に記載した価額が相当であることについて、弁護士、公認会計士、税理士などの証明を受けた場合(不動産の場合は、その証明に加えて、不動産鑑定士の鑑定評価が必要)
証明をする専門家には、制限があります。たとえば、発起人や、設立時取締役などは、証明をすることができません。
現物出資の税金の注意
現物出資をすると、出資した人が、出資した財産を、会社に譲渡したのと、同じように扱われる場合があります。たとえば、個人が所有する不動産や、有価証券を、会社に現物出資した場合は、譲渡益に、所得税などが課税されることがあります。また、不動産の場合は、登記の費用や、不動産取得税などが、かかる場合があります。税金の扱いは、財産の種類や、状況によって変わるため、事前に、税理士に、確認してください。
方法2:設立後に、増資する

資金に余裕がない場合は、まず、必要最小限の資本金で、設立し、事業が軌道に乗ってから、増資する方法があります。増資とは、新たに株式を発行して、資本金を増やすことです。増資には、株主総会の決議や、登記が必要で、登録免許税などの費用も、かかります。設立の時に、許認可などの、資本金の要件がある場合は、あらかじめ、確認しておいてください。
やってはいけない方法:見せ金

資本金を大きく見せるために、やってはいけないのが、「見せ金」です。
見せ金とは?
見せ金とは、資本金を払い込んだように、見せかけて、実際には、払い込んだお金を、すぐに引き出して、返済するなどの行為です。たとえば、次のような行為です。
- 他人から、一時的に、お金を借りて、資本金として、払い込んだあと、設立の登記が終わると、すぐに引き出して、返済する
- 通帳の残高を、一時的に、大きくして、払い込みがあったように、見せる
見せ金のリスク
見せ金は、出資の履行を、仮装する行為にあたり、次のようなリスクがあります。
- 会社法第52条の2:発起人は、払い込みを仮装した場合は、会社に対して、仮装した出資に係る金銭の全額を、支払う義務を負う。仮装に関与した、発起人や、設立時取締役も、会社に対して、支払う義務を負う場合がある
- 刑法第157条:公務員に対して、虚偽の申立てをして、登記簿などに、不実の記載をさせた者は、5年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金に処される
- 会社の設立の無効や、登記の抹消を、求められるおそれ
- 金融機関や、取引先からの信用を、大きく失う
資本金の払い込みは、実際に、会社の事業のために使える、お金を払い込むことが、前提です。見せ金は、絶対に、避けてください。
資本金と資本準備金の考え方

資本金を大きく見せたい場合に、知っておきたいのが、資本準備金との違いです。会社法第445条は、株式会社の資本金の額は、設立または株式の発行にあたって、株主となる者が、払い込み、または給付した財産の額とすると、定めています。ただし、払い込まれた額の2分の1を超えない額は、資本金に計上せず、資本準備金として計上することもできます。
つまり、払い込む額のうち、最大で半分を、資本準備金にできるため、資本金の額を、抑えることも、できます。たとえば、消費税の免税の関係で、資本金を1,000万円未満にしたい場合は、この仕組みを使うことがあります。逆に、資本金を大きく見せるためには、払い込んだ額の全額を、資本金に計上するという、考え方になります。
払い込んだ資本金は、事業に使ってよい

資本金として払い込んだお金は、会社の財産です。設立の登記が終わったあとは、事務所の賃貸の費用、設備の購入、仕入れ、人件費など、事業のために、使うことができます。事業に使った結果、資本金の額よりも、会社の預金が減っても、問題ありません。
ただし、「払い込んだお金を、借りた人にすぐに返す」ことは、見せ金にあたるおそれがあります。資金の出どころや、払い込み後の使い方は、記録に残して、事業のために使ったことを、説明できるようにしておいてください。
現物出資の具体例

現物出資を行う場合の、手順を、例で確認します。次の例は、理解のための想定です。
例:個人事業主が、事業で使っていたパソコンと什器を、会社に出資する
個人事業主として使っていた、パソコンや、事務机、什器などを、新しく設立する会社に、現物出資するケースです。
- 出資する財産の一覧を作り、それぞれの価額(時価)を、評価する
- 定款に、出資者の氏名、財産の内容、価額、割り当てる株式の数を、記載する
- 財産の価額の総額が、500万円を超えない場合は、検査役の調査が、不要となる
- 発起人から、会社への財産の引き渡しを、行い、記録を残す
- 設立の登記の申請に、現物出資に関する書類を、添付する
価額の評価の方法や、必要な書類は、状況によって異なります。司法書士や、税理士に相談してください。
現物出資が向いているケース
現物出資は、事業で、実際に使う財産を、会社に引き継ぐ場合に、向いています。たとえば、個人事業主から、法人に切り替える(法人成り)場合に、事業用の資産を、現物出資すると、新たに現金を用意せずに、資本金を構成できます。ただし、税金の扱いや、手続きが、複雑になるため、慎重に検討してください。
資本金に関する、よくある質問

Q1. 親や知人から借りたお金で、資本金を払い込んでもよいですか?
借りたお金で、資本金を払い込むこと自体は、直ちに違法ではありません。ただし、払い込んだお金を、設立後すぐに、返済するなど、実質的に、出資の履行がない場合は、見せ金にあたるおそれがあります。借入を使う場合は、返済の計画や、資金の使い道を、整理しておいてください。
Q2. 資本金を、あとから、増やすことはできますか?
できます。増資の手続きは、株式を新たに発行して行い、株主総会の決議と、登記が、必要です。登録免許税などの費用も、かかります。
Q3. 資本金が少ないと、融資を受けにくくなりますか?
資本金の額だけで、融資の可否が決まるわけではありません。創業融資では、自己資金の額や、事業計画が、重視されます。ただし、資本金が極端に少ないと、資金計画が、不十分と見られる可能性があります。
払い込みの方法と、必要な書類

株式会社を設立するときの、資本金の払い込みは、会社法第34条により、発起人が定めた、銀行などの払込みの取扱いの場所で、行う必要があります。実務では、設立の登記の前に、発起人の個人の銀行口座に、資本金を振り込み、その通帳の、表紙、裏表紙、振り込みの記録のページを、コピーして、「払込証明書」を作成するのが一般的です。
払い込みの日付は、定款の作成の日以降である必要があります。また、振込の名義や、金額が、発起人の出資の内容と、一致していることを確認してください。書類の作成や、登記の手続きに不安がある場合は、司法書士に、依頼することもできます。払い込みの方法に不備があると、登記が受理されず、設立が遅れるおそれがあります。
資本金の払い込みで、よくあるミス

次のようなミスに、注意してください。
- 定款の作成の日より前に、資本金を払い込んでしまう
- 通帳のコピーの、必要なページが、不足している
- 発起人の名前と、振込の名義が、異なっている
- 払い込みの金額が、定款に記載した出資の額と、合っていない
- 現物出資の価額の評価に、根拠がない
こうしたミスを防ぐために、設立の手続きの前に、専門家に、流れを確認してもらうことをおすすめします。
資本金の額を決めるときの、考え方

資本金の額は、現金を用意できる範囲で、事業に必要な額を、基準に、決めることをおすすめします。
- 設立の費用、開業の準備の費用、数か月分の運転資金を、積み上げて、必要な資金を出す
- 許認可が必要な事業は、財産的基礎の要件を、確認する
- 消費税の課税・免税の方針を、考える(資本金1,000万円以上は、設立1期目から課税事業者になる)
- 創業融資を使う場合は、自己資金の額が、審査で見られることを、踏まえる
詳しくは、別の記事「会社設立の資本金はいくらが最適?税金・許認可・融資から解説」で、解説しています。
会社の信用を、資本金以外で高める方法

資本金を大きくできない場合でも、次のような方法で、会社の信用を、高められます。
- 事業計画や、実績を、丁寧に説明する
- 決算書を、正確に作成し、月次の試算表も、整えておく
- 取引先への、支払いを、期日を守って行う
- ホームページや、会社案内で、事業の内容や、実績を、わかりやすく伝える
- 税理士などの専門家と、顧問契約を結び、経理や税務の体制を、整える
長く、誠実に、事業を続けることが、最終的には、最も大きな信用になります。
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※本記事は、2026年10月時点の情報をもとに作成しています。法律や制度は変更されることがあるため、手続きの前に、e-Gov法令検索や、国税庁などの公式情報をご確認ください。




