会社を設立してから、実際に、営業を始めるまでの間には、事務所の準備、広告、打ち合わせなど、さまざまな支出が、発生します。これらの費用を、「開業費」として、経費にできる場合があります。しかし、「どのような費用が、開業費に、あたるのか」「開業日の、どのくらい前の支出まで、認められるのか」「いつ、経費にできるのか」と、迷う経営者は、少なくありません。
この記事では、法人税法施行令などの条文をもとに、開業費の定義、含まれる費用の例、創立費との違い、経費にするタイミング、経理処理の方法、注意点を、解説します。個人事業主の開業費についても、触れます。領収書や、事業との関連を、説明できる記録を、きちんと残しておくことが、開業費を、適切に処理するための、基本です。
なお、税制は、改正されることがあります。この記事は、2026年10月時点で、e-Gov法令検索、国税庁の公表情報などをもとにしています。実際の処理では、最新の情報を確認し、税理士にご相談ください。
Contents
開業費とは?

法人税法施行令第14条第1項は、法人が支出する費用のうち、「繰延資産」にあたるものを、定めています。その中に、「開業費」があり、次のように、定義されています(e-Gov法令検索で確認)。
- 開業費:法人の設立後、事業を開始するまでの間に、開業準備のために、特別に支出する費用
つまり、会社が設立されたあと、営業を始めるまでの間に、事業を開始するための準備として、特別に支出した費用が、開業費です。通常の営業を始めてからの、日常の経費とは、区別されます。
繰延資産とは
繰延資産とは、支出した費用の効果が、将来にわたって及ぶと考えられるため、支出した時に、全額を、費用にするのではなく、資産として計上し、のちに、費用に振り替える、費用のことです。開業費は、この繰延資産の一つとして、扱われます。
創立費との違い

開業費と、よく似た費用に、「創立費」があります。同じ令第14条第1項に、次のように、定められています。
- 創立費:発起人に支払う報酬、設立登記のために支出する登録免許税、その他、法人の設立のために支出する費用で、その法人の負担に帰すべきもの
- 開業費:法人の設立後、事業を開始するまでの間に、開業準備のために、特別に支出する費用
| 項目 | 創立費 | 開業費 |
|---|---|---|
| 目的 | 会社を設立するための費用 | 事業を開始するための準備の費用 |
| 主な時期 | 設立の登記までの間(設立のための支出) | 設立後、事業を開始するまでの間 |
| 主な例 | 定款の作成費用、定款認証の手数料、設立登記の登録免許税、発起人への報酬 | 開業前の広告宣伝費、打ち合わせの交通費、開業準備のための、セミナー参加費、名刺の作成費 |
両者は、どちらも、繰延資産として、扱われ、同じように、任意の時期に、償却できます。区分に、迷う場合は、税理士に確認してください。
開業費に含まれる費用の例

どのような費用が、開業費に含まれるかは、個別に、判断される必要があります。一般的に、開業費として、扱われることが多い、費用の例を、紹介します。飲食店を開業する場合を、例にします。
| 費用の種類 | 具体例 |
|---|---|
| 開業準備のための、情報収集や、研修 | 開業セミナーの参加費、書籍の購入費 |
| 打ち合わせなどの、交通費・通信費 | 業者との打ち合わせの交通費、通信費 |
| 店舗や事務所の、契約関連の費用 | 契約の仲介手数料、契約の手続きにかかった費用(敷金・保証金は、返還される場合は、資産として処理) |
| 広告宣伝の費用 | 開業前の、チラシの作成費、ウェブサイトの制作費 |
| 事務的な費用 | 名刺、印鑑、事務用品の購入費 |
| 人材の採用・研修の費用 | 開業前の、従業員の採用費、研修費、開業準備のための人件費 |
| 試運転・試作の費用 | 開業前の試作品の費用、試運転の費用 |
事業との関連性を、説明できる支出であれば、開業費に、含められると、考えるのが、一般的です。ただし、最終的な判断は、個別の事情によって、異なります。
開業費に、ならないもの
次のような支出は、開業費ではなく、別の処理になります。
- 資産の取得に要した金額とされるべき費用:設備、機械、車両、パソコンなどの、取得費用は、減価償却資産として、処理する
- 前払費用:継続的な契約に基づき、将来の役務の提供を受けるために、支出する費用で、まだ提供を受けていないもの
- 返還される予定の、敷金や、保証金:資産(差入保証金)として処理する
- 事業と、関係のない、個人的な支出
法人税法施行令第14条第1項は、繰延資産から、「資産の取得に要した金額とされるべき費用」と、「前払費用」を、除いています。
開業日の、どのくらい前の支出まで、認められる?

開業費として、認められる期間について、法人税法施行令には、「何か月前まで」という、具体的な期間の定めは、ありません。令第14条第1項の定義は、「法人の設立後、事業を開始するまでの間に、開業準備のために特別に支出する費用」です。
実務上の考え方
実務では、次のように、考えるのが、一般的です。
- 会社の設立後から、事業の開始までの、期間の支出が、開業費の対象
- 設立の前の支出は、会社の設立のための費用(創立費)や、発起人が立て替えた、設立準備の費用として、整理する場合がある
- 設立の、ずっと前の支出は、事業との関連や、会社が負担すべきものかどうかを、説明するのが、難しくなる
「設立の半年前まで」といった、目安を、示す解説もありますが、これは、税法に、定められた、基準ではなく、事業との関連性を、説明できるかどうかが、実際の判断の、ポイントです。設立の前の支出を、開業費に含めたい場合は、領収書や、契約書、事業との関連を、示す資料を、そろえておくことが、大切です。
個人事業主から、法人成りした場合
個人事業主として、事業を営んでいた人が、法人を設立した場合は、扱いが、異なります。個人事業の期間中の、支出は、個人事業の経費として、処理され、法人の開業費には、ならないのが、一般的です。個人事業と、法人の、事業が、連続している場合は、どの支出を、どちらの経費とするかを、慎重に、整理する必要があります。
開業費を、経費にする方法(償却)

開業費は、繰延資産として、いったん、資産に計上し、その後、費用(償却費)として、損金に算入します。
償却の方法は、任意
法人税法施行令第64条第1項第1号は、開業費などの繰延資産について、償却限度額を、その繰延資産の額(既に償却した額を、除いた額)としています。つまり、開業費は、支出した額の範囲内で、任意の事業年度に、任意の金額を、償却して、損金に算入できます。
| 償却の方法 | 内容 |
|---|---|
| 一括で償却する | 支出した事業年度に、全額を、費用にする。利益が出ている年度に、まとめて経費にする場合に、有効 |
| 分割して償却する | 数年に分けて、少しずつ、費用にする。利益が、小さい年度に、残しておく方法 |
| 償却しない年度がある | 任意のため、償却しない年度も、選べる |
どのタイミングで、償却するのがよいか
開業費は、償却のタイミングを、選べるため、税金の負担を、考えながら、決められます。たとえば、次のように、考えます。
- 開業の初年度に、利益が出る見込みがある場合:初年度に、全額を償却して、税金を抑える
- 開業の初年度は、赤字の見込みで、2年目以降に、利益が出る場合:赤字の年度は、償却を控え、利益が出る年度に、償却する。ただし、青色申告の場合は、赤字を、10年間、繰り越せる(国税庁のタックスアンサーによる)ため、有利な方法は、状況によって異なる
どの方法が、有利かは、会社の状況によって、異なります。決算の前に、税理士と、利益の見込みを、確認して、決めることをおすすめします。
経理処理の例

開業費の経理処理の例を、紹介します。この例は、理解のための想定です。
例:設立後、開業までに、50万円を支出した場合
- 支出したとき:開業費(繰延資産)50万円を、資産に計上する
- 決算のとき:償却する金額を決めて、開業費償却として、費用に計上する。全額を償却する場合は、50万円を、費用にする
会計上は、支出した時に、全額を費用(販売費及び一般管理費、または営業外費用)にする処理や、繰延資産として、計上して、一定の期間で、償却する処理など、複数の方法が、認められている場合があります。会計処理の方法は、税理士や、公認会計士に、確認してください。
個人事業主の開業費

個人事業主にも、開業費の考え方があります。個人事業主が、開業の準備のために、特別に支出した費用は、繰延資産として、扱われます。所得税の計算でも、繰延資産は、任意の償却が、認められているため、開業した年に、全額を、必要経費にするか、数年に分けて、必要経費にするかを、選べます。
ただし、個人事業主の、開業費の取扱いは、所得税法の、規定に基づくため、法人とは、条文が、異なります。詳しくは、国税庁の案内や、税理士に、確認してください。
開業費を処理するときの、注意点

- 領収書や、請求書を、保管する:開業費として、処理する根拠になる。事業との関連を、メモに残しておくと、さらによい
- 個人が立て替えた費用は、精算する:設立前後に、経営者個人が、立て替えた費用は、会社が、精算(立替金の返済)する。精算の記録を、残す
- 設備や、備品は、別に処理する:パソコンや、機械などは、取得価額に応じて、減価償却や、少額減価償却資産の特例(令和8年4月1日以後に取得した場合は、取得価額40万円未満が対象。国税庁による)を、検討する
- 敷金や、保証金は、資産:返還される予定の、敷金や、保証金は、費用ではなく、差入保証金として、資産に計上する
- 個人的な支出を、混ぜない:事業と関係のない、支出を、開業費に含めると、税務調査で、否認されるおそれがある
設立から開業までの、費用の整理表(例)

設立の前後に発生する、費用を、種類ごとに、整理すると、処理の漏れを防げます。次の表は、想定の例です。
| 時期 | 費用の例 | 主な処理 |
|---|---|---|
| 設立の登記まで | 定款の作成費用、定款認証の手数料、登録免許税 | 創立費(繰延資産) |
| 設立後、開業まで | 広告宣伝費、打ち合わせの費用、開業準備のセミナー費、名刺の作成費 | 開業費(繰延資産) |
| 設立後、開業まで | パソコン、什器、機械などの購入費 | 減価償却資産(少額の場合は、特例の検討) |
| 設立後、開業まで | 敷金、保証金(返還されるもの) | 差入保証金(資産) |
| 開業後 | 通常の事業活動に伴う費用 | 通常の経費 |
こうした整理表を、作成し、領収書を、費用の種類ごとに、ファイルしておくと、決算のときに、スムーズに処理できます。
開業費の処理を、間違えやすいケース

次のようなケースは、処理を、間違えやすいため、注意してください。
- 開業準備のための、パソコンの購入を、開業費にしてしまう(本来は、減価償却資産として処理)
- 開業前の、家賃や、光熱費を、前払費用として、処理せずに、全額を、開業費にしてしまう
- 設立前の個人の支出を、領収書がないまま、開業費に含めてしまう
- 事業の開始の日が、あいまいで、開業費と、通常の経費の区分が、できなくなる
- 償却の金額を、決算のたびに、変えてしまい、管理が、複雑になる
こうした誤りは、税務調査で、指摘されることがあります。迷った場合は、税理士に、確認してください。
開業費に関する、よくある質問

Q1. 開業費は、必ず、経費にしなければなりませんか?
いいえ。開業費は、任意償却のため、経費にする金額や、時期を、選べます。償却しない年度があっても、問題ありません。
Q2. 開業費の上限は、ありますか?
法律で、上限額は、決められていません。ただし、事業との関連が、説明できない、過大な支出は、否認されるおそれがあります。
Q3. 開業後に、支出した費用も、開業費になりますか?
開業費は、事業を開始するまでの間の、支出です。事業を開始したあとの、支出は、通常の経費として、処理します。事業の開始の日が、いつかは、実際の状況で、判断されるため、営業を始めた日を、記録しておいてください。
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※本記事は、2026年10月時点の情報をもとに作成しています。税制は変更されることがあるため、手続きの前に、e-Gov法令検索や国税庁などの公式情報をご確認ください。




