複数の子会社やグループ会社を抱える企業では、各社の経理業務が個々の担当者に依存し、業務内容が外部から見えにくくなっているケースが少なくありません。決算期になると特定の担当者だけが対応方法を把握しており、休職や退職が発生した際に業務が滞ってしまう。こうした状況は多くのグループ企業に共通する課題です。特にM&Aを通じて事業を拡大してきた企業グループでは、もともと別の会社であった組織を統合する過程で、経理業務のやり方や社内ルールが統一されないまま運用が続いていることも珍しくありません。
グループ全体の経営管理を担う立場からすると、各社の経理状況が見えにくいこと自体がリスクとして意識されます。決算報告のタイミングで初めて各社の状況を把握するという運用が続くと、問題が発覚してから対応するまでの時間的な余裕がなくなりがちです。日頃から各社の業務状況を一定程度可視化しておくことは、グループ経営における基本的な備えといえます。
加えて、M&Aによってグループ会社が増えると、会社ごとに異なる会計システムや業務フローが混在し、決算報告や連結処理に余計な工数がかかるようになります。さらに上場企業やその子会社であれば、J-SOXに代表される内部統制対応も避けて通れないテーマとなります。経理業務の属人化解消、会計システムの統一移行、そしてJ-SOX内部統制対応は、一見別々の課題に見えて実は密接に関連しています。それぞれの課題を個別に対応しようとすると、部門ごとに異なる方針が採られてしまい、グループ全体としての一貫性が保ちにくくなります。
本コラムでは、グループ経営における経理体制の整備をテーマに、属人化の解消、会計システムの統一移行、内部統制対応の三つの観点から、実務上押さえておきたいポイントを整理します。これらは個別の施策として捉えるのではなく、グループ全体の経理基盤を強化するという一つの目標に向けた相互に関連する取り組みとして進めていくことが望まれます。
Contents
グループ経理における属人化と会計システム統一の制度的背景

まず前提として、経理業務の属人化とは、特定の担当者しか業務の詳細を把握していない状態を指します。属人化そのものを禁止する法令があるわけではありませんが、内部統制の観点からは望ましくない状態として位置づけられます。一人の担当者に業務が集中する体制は、不正防止やミスの早期発見という統制上の目的と相性が良くないためです。担当者本人に悪意がなくとも、確認する第三者がいない状態が続けば、誤りに気づく機会そのものが失われてしまいます。これは能力や誠実さの問題ではなく、体制上の構造的な弱点として捉える視点が実務上は重要です。
グループ会社が複数存在する場合、各社で経理担当者の人数や経験年数、使用する会計システムが異なることは珍しくありません。ベテラン中心の少人数体制で運用されている会社ほど、担当者の頭の中にしか存在しない処理ルールが蓄積しやすい傾向があります。業務分担は明確でも、バックアップ体制が十分でない場合、その担当者が不在になった瞬間に業務が停滞するリスクが高まります。長年同じ担当者が対応してきた業務ほど、外部から見ると処理の根拠や判断基準が不透明になりやすく、後任者への引き継ぎに時間がかかる傾向も見られます。
会計システムについても、グループ内で複数のシステムが並存している状態はよく見られます。ある会社は特定のパッケージシステムを使用し、別の会社は異なるシステムを利用している。データ連携の際にはExcelなどを介した手作業での取り込みが発生し、担当者の負担が増える要因になります。給与計算についても、タイムカードや紙媒体による運用が残っているケースでは、システム間の自動連携が難しく、二重入力や確認作業が発生しやすくなります。こうした手作業が積み重なることで、月次決算の締めにかかる日数が長期化し、経営陣への報告が遅れる要因にもなります。
こうした背景から、グループ会社の会計システムを統一する、あるいは段階的に移行するという方針を検討する企業が増えています。日々の入力作業を効率化する目的だけでシステム統一を捉えると、投資対効果が見えにくくなってしまいます。会計システムの統一移行は、日々の利便性向上に加えて、グループ全体の決算早期化や内部統制の実効性向上にもつながる取り組みとして位置づけることが実務上望ましいといえます。決算資料の作成にかかる時間が短縮されれば、経理担当者は例外処理の確認や数値の精査といった、より付加価値の高い業務に時間を割けるようになります。一方で、システム統一には導入コストや現場の抵抗感といった実務上のハードルも存在するため、費用対効果を踏まえた慎重な検討が必要です。導入前の段階で、対象となる会社の業務量や決算スケジュールを整理し、投資に見合う効果が見込めるかどうかを確認しておくことが、後々の判断材料になります。
さらに、上場企業やその連結子会社にあたる場合には、J-SOXへの対応も制度上の重要なテーマになります。J-SOXとは、金融商品取引法に基づく内部統制報告制度の通称であり、財務報告に係る内部統制の有効性を経営者自らが評価し、報告することを求める制度です。グループ会社を含めた連結ベースでの評価が必要となるため、子会社の経理体制や会計システムの状況も評価対象に含まれます。属人化した業務プロセスや統一されていない会計システムは、J-SOX対応における文書化や評価作業の負担を増やす要因になりやすい点に留意が必要です。評価対象となる子会社の範囲は、連結財務諸表における重要性を踏まえて決定されるため、グループ内のすべての会社が一律に詳細な評価を求められるわけではありません。とはいえ、重要性が高いと判断される子会社については、経理体制の実態を早めに把握しておくことが実務上望ましい対応といえます。
経理業務の属人化を解消するための実務上の注意点

属人化の解消は、単に業務マニュアルを作成すれば完了するものではありません。実務では段階的なアプローチが求められます。まず取り組みたいのが、現状の業務内容を可視化することです。担当者ごとにどのような処理を行っているか、業務分担表という形で整理すると、抜け漏れや重複が把握しやすくなります。
業務分担表を作成する過程で、決算スケジュールとの整合性を確認しておくことも重要です。四半期決算や半期決算のタイミングで、誰がどの資料を作成し、いつまでに親会社へ報告するのかを整理することで、属人化が業務のどの部分に集中しているかが見えてきます。
次に検討したいのが、業務標準化とマニュアル化です。マニュアルは作成した時点で満足せず、更新履歴を残す運用を組み込んでおくことが望まれます。担当者が変更点を都度反映しないまま時間が経過すると、マニュアルと実際の運用に差異が生じ、かえって混乱を招く原因になります。特に決算処理のように年に数回しか発生しない業務は、前回の対応内容を記録しておかないと、担当者自身も細部を忘れてしまうことがあります。月次や四半期ごとに内容を見直すタイミングを設けておくと、実務との乖離を防ぎやすくなります。マニュアルの更新を特定の担当者だけに任せるのではなく、確認と承認のプロセスをチーム内で共有しておくことも、実務上の工夫として有効です。
属人化解消の一環として、業務委託の活用を検討する企業も増えています。経理担当者が高齢化している、あるいは後任の確保が難しいといった事情がある場合、記帳代行や給与計算業務の一部を外部委託することで、業務継続性を確保しやすくなります。外部委託を導入する際は、委託範囲を明確にし、社内に残す業務との境界線を整理しておくことが実務上のポイントです。境界が曖昧なまま委託を進めると、責任の所在が不明確になり、かえって管理負担が増える可能性があります。委託先とのやり取りにおいても、月次でどのような資料をいつまでに受け渡すのか、確認の手順をあらかじめ取り決めておくと、外部委託後の運用が安定しやすくなります。
コミュニケーション体制の整備も欠かせません。グループ会社間でTeamsなどのツールを活用した定例会議を実施している企業は多いものの、議事録や決定事項の履歴が残されていないと、後から経緯を確認できず、同じ議論を繰り返すことになりがちです。会議の記録を一定のフォーマットで残しておくことは、属人化解消と内部統制の両面で有効な取り組みといえます。定例会議に加えて、各社の経理担当者が直接顔を合わせる機会を設けることも、実務上の情報共有を進めるうえで役立ちます。オンラインでのやり取りだけでは伝わりにくい細かな運用上の工夫や、現場ならではの気づきを共有できる場を意識的に設けることが、属人化の解消につながる土台になります。
会計システム統一移行を進める際の実務ポイント

会計システムの統一移行を検討する際、最初に整理すべきは移行の目的です。決算業務の効率化を優先するのか、グループ全体でのデータ連携を優先するのか、目的によって選定すべきシステムや移行の優先順位が変わってきます。目的を明確にしないまま移行計画を進めると、現場の負担だけが増え、期待した効果が得られない結果になりかねません。
システム移行では、既存データの取り込みと過去データとの整合性確認が実務上の大きな論点になります。特に債権債務や固定資産の管理データは、新旧システム間で科目体系や管理単位が異なることがあり、単純な移し替えでは対応しきれない場合があります。移行前の段階で、データ項目のマッピング作業に一定の時間を確保しておくことが望まれます。過去の取引履歴をどこまで新システムに引き継ぐかについても、監査上必要となる保存期間を踏まえたうえで判断する必要があります。旧システムのデータをすべて破棄してしまうと、後日の照会に対応できなくなるため、一定期間は旧システムへの参照経路を残しておくといった配慮も実務上有効です。
現場の抵抗感への対応も、システム統一移行を進めるうえで避けて通れないテーマです。長年同じシステムを使い慣れた担当者にとって、操作方法の変更は業務負荷の増加として受け止められやすいものです。移行スケジュールを一気に進めるのではなく、段階的に切り替えていく方法や、移行期間中のサポート体制を用意しておく方法が、現場の理解を得やすい進め方といえます。移行の目的や期待される効果を、決定事項として一方的に伝えるのではなく、現場の担当者から意見を聞く機会を設けておくことも、円滑な導入につながります。実際に日々の業務を担っている担当者の声を反映することで、新システムの運用ルールがより実態に即したものになります。
| 検討項目 | 確認しておきたいポイント |
|---|---|
| 移行の目的 | 決算効率化、連結対応、内部統制強化のいずれを優先するか |
| データ移行範囲 | 債権債務、固定資産、給与データなどの取り込み方法 |
| 移行スケジュール | 決算期を避けた段階的な移行計画の策定 |
| 現場サポート | 操作研修やマニュアル整備、移行期間中の問い合わせ体制 |
| 監査法人との連携 | 移行に伴う内部統制上の影響について事前に確認 |
会計システムをグループ全体で完全統一するか、各社の裁量を一定程度残すかについては、費用対効果の観点から慎重に判断する企業が多いようです。全社統一には初期投資が必要になる一方で、決算業務の標準化や連結処理の効率化という効果が見込めるため、中長期的な視点での検討が求められます。一律に統一を急ぐのではなく、業務規模やグループ内での重要性を踏まえた優先順位づけが実務上の現実的な進め方といえます。
J-SOX内部統制対応で押さえておきたい実務のポイント

J-SOX対応というと、監査法人とのやり取りや評価文書の作成といった形式的な作業を思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし本来の目的は、財務報告の信頼性を確保するための実効性ある体制を構築することにあります。グループ会社を含めた評価が求められるため、子会社の経理体制やシステム環境も評価範囲に含まれる点を理解しておく必要があります。
実務上のポイントとして、まず統制活動の整理が挙げられます。承認プロセスや権限の分掌が各社でどのように運用されているかを確認し、グループとして一定の水準を保てているかを点検することが重要です。属人化した業務プロセスは、承認や確認の記録が残りにくく、内部統制上の評価がしづらくなる傾向があるため、この段階で業務フローを見直す機会と捉えることもできます。具体的には、誰がどの段階で承認を行い、その記録がどこに残っているかを一つひとつ確認していく作業になります。紙の稟議書やメールでの承認が混在している場合は、記録の一貫性を保つ観点から、承認手段を整理しておくことが望まれます。
会計システムの統一移行を進める際は、内部統制との連携も同時に検討しておきたい論点です。新システムへの移行に伴い、承認フローや権限設定がどのように変わるのか、統制上の要件を満たせるのかを事前に確認しておくことで、移行後の評価作業がスムーズになります。移行計画の初期段階から会計士や監査法人と情報共有を行っておくことは、後工程での手戻りを防ぐうえで有効な進め方です。
また、税務調査や監査での指摘事項がない状態が続いているとしても、それは現状の統制水準が今後も維持される保証にはなりません。過去に指摘を受けた事項が解消されている場合でも、業務フローや担当者が変わるタイミングで同様の論点が再び生じる可能性があります。定期的な内部監査や自己点検の仕組みを組み込んでおくことが、継続的な統制水準の維持につながります。内部監査の担当者がいない中小規模のグループ会社であっても、経理担当者以外の第三者が定期的に処理内容を確認する仕組みを設けておくだけで、統制上の効果は一定程度期待できます。
経理体制整備でよくある誤解

グループ経理の体制整備を検討する過程では、いくつかの誤解が見られます。実務上の判断を誤らないためにも、代表的なものを整理しておきます。こうした誤解を放置したまま体制整備を進めると、期待した効果が得られず、かえって現場の混乱を招くことにもなりかねません。
- 属人化解消はマニュアル作成だけで完了すると考えてしまう誤解です。マニュアルは運用と更新が伴って初めて効果を発揮します。
- 会計システムを統一すれば内部統制の課題もすべて解決すると考えてしまう誤解です。システムはあくまで手段であり、運用ルールの整備が伴わなければ効果は限定的です。
- J-SOX対応は上場準備企業だけの課題だと考えてしまう誤解です。グループ会社の一員として連結対象に含まれる場合は、非上場の子会社であっても評価対象になり得ます。
- 属人化は個人の能力の問題であると考えてしまう誤解です。実際には業務分担やバックアップ体制といった仕組みの問題であることが多く、個人の努力だけでは解消しにくい構造的な課題です。
- システム移行は情報システム部門だけの課題だと考えてしまう誤解です。経理部門や内部監査部門を含めた横断的な検討が求められます。
- 過去に指摘事項がなければ今後も問題は生じないと考えてしまう誤解です。担当者の異動やシステム変更に伴い、統制上の論点が新たに生じることがあります。
- 業務委託を導入すれば属人化の課題がすべて解消すると考えてしまう誤解です。委託範囲と社内業務の境界を明確にしなければ、かえって管理が複雑になる場合があります。
専門家へ相談するメリット

経理体制の整備は、社内のリソースだけで完結させようとすると、どうしても日常業務の合間での対応にとどまり、抜本的な見直しまで手が回らないことがあります。税理士や公認会計士など外部の専門家に相談することで、客観的な視点から現状の業務フローを整理し、優先順位をつけた改善計画を立てやすくなります。
特にグループ会社を複数抱える企業の場合、各社の状況を横断的に把握し、統一的な視点で業務標準化を進める作業には一定の専門性が求められます。税理士法人であれば、税務面での実務対応に加えて、決算業務の効率化や会計処理の標準化についても実務的な助言が期待できます。会計システムの選定や移行計画についても、複数の企業の導入事例を踏まえた助言を受けられる点は、社内だけで検討を進める場合と比べて大きな利点です。自社だけで情報収集を行う場合、限られた事例しか参考にできませんが、複数の企業を支援してきた専門家であれば、業種や規模の異なる事例を踏まえたうえで、自社に合った進め方を提案してもらいやすくなります。
J-SOX内部統制対応については、公認会計士や監査法人との連携が前提となる場面が多くあります。評価範囲の設定や文書化の進め方について、早い段階から専門家に相談しておくことで、決算期に業務が集中する事態を避けやすくなります。内部統制の評価作業は一度整備すれば終わりではなく、継続的な運用と見直しが求められるため、専門家との継続的な関係を築いておくことが実務上の安心材料になります。
また、業務委託の活用を検討する際も、社会保険労務士や税理士など各専門分野の知見を組み合わせることで、給与計算や記帳代行といった業務を適切な範囲で外部化しやすくなります。専門家それぞれの得意分野を踏まえて相談先を選ぶことで、経理体制の整備をより実効性の高いものにできます。給与計算であれば社会保険労務士、税務申告や決算業務であれば税理士というように、業務の性質に応じて相談先を使い分けることも実務上の工夫のひとつです。窓口を一本化したい場合には、複数の専門法人が連携しているグループへ相談することで、部門をまたぐ調整の手間を軽減できる場合もあります。
経理体制の整備は段階的な取り組みが実務的です

グループ経営における経理体制の整備は、属人化解消、会計システムの統一移行、J-SOX内部統制対応という三つのテーマが相互に関連しながら進んでいくものです。どれか一つだけを切り出して対応しようとしても、他の課題との整合性が取れず、かえって非効率になる場合があります。現状の業務を可視化し、優先順位を定めたうえで段階的に整備を進めていく姿勢が、実務上は現実的な進め方といえます。
決算期や繁忙期を考慮しながら資料の整理や現場ヒアリングを段階的に進めることは、担当者の負担を分散させるうえでも有効です。業務分担表や決算スケジュールを整理し、情報システム部門やDX推進部門とも連携しながら、システム移行と内部統制対応を同時並行で検討していくことが、グループ全体の経理基盤を強化する近道になります。一度にすべての課題に着手しようとすると、現場の負担が過度に集中してしまうため、優先順位の高いテーマから着実に取り組んでいく姿勢が実務上は現実的です。関連部署へのヒアリングを重ねながら、資料共有の仕組みを整え、進捗状況を定期的に確認していくことで、無理のないペースで体制整備を進めていくことができます。
経理体制の見直しは、一度整備すれば完了するものではなく、グループ会社の増減や事業環境の変化に応じて継続的に見直していく必要があるテーマです。。事業拡大や新規子会社の加入があるたびに、既存の体制がそのまま通用するかを点検し、必要に応じて業務分担やシステム構成を見直していく姿勢が求められます。社内での検討に加えて、税理士法人ストラーダをはじめとするストラーダグループの各専門法人にご相談いただくことで、税務、会計、内部統制それぞれの観点から実務に即した助言を得られます。グループ経理の体制整備でお悩みの際は、早めの段階でお気軽にご相談ください。
J-SOX対応のお悩みはストラーダグループへ





