収益物件の売却や購入を検討する際、価格や利回りといった投資指標だけでなく、資産承継や税務上の位置づけまで含めて総合的に判断することが重要です。近年は国内の投資家に加え、海外資本による取引動向にも変化が見られ、市場環境が複雑化しています。あわせて、相続や資産承継の対策として家族信託や民事信託を活用する動きも広がりつつあります。こうした背景から、収益物件の取引を進める際には、不動産、税務、法務の各分野を横断した専門家との連携が実務上のポイントになってきています。
本コラムでは、収益物件の仲介・売買における実務上の注意点、家族信託を活用した資産承継の考え方、そして中国資本をはじめとする富裕層の不動産売却動向について、実務家の視点から整理します。制度の理解と実務対応の両面から、読者の判断材料となる情報を提供することを目的としています。
収益物件のオーナーが直面する課題は、単に不動産市況にとどまりません。賃貸経営を長期にわたって継続していくためには、所有者自身の年齢や健康状態の変化、相続人となる家族構成、法人であれば経営者の交代時期など、さまざまな要素を並行して考慮する必要があります。特に、複数の収益物件を保有している場合や、法人と個人の両方で不動産を所有しているケースでは、承継の道筋を早い段階で整理しておくことが実務上の負担軽減につながります。
また、不動産市場そのものも一定周期で変化しています。金利動向や賃貸需要の変化、海外からの資金流入の増減など、外部環境の変化が価格形成に影響を与える場面は少なくありません。こうした変化を的確に把握したうえで、売却や購入のタイミング、資産承継の設計を検討することが、実務上望ましい進め方といえます。加えて、契約書レビューなどの分野ではAIを活用したリーガルチェックの導入も進んでおり、今後は定型的な作業の一部がこうした技術に置き換わっていくことも想定されます。一方で、依頼者の状況を踏まえた提案や、家族間の意向調整といった部分は、引き続き専門家が担う役割として残ると考えられます。
Contents
収益物件をめぐる取引環境の変化と課題

収益物件は、居住用不動産と比較して投資性の高い資産として扱われる傾向があります。賃料収入や利回りといった収益性の指標が重視される一方で、所有者の年齢や家族構成によっては、将来の資産承継をどのように設計するかという課題が併せて生じます。特に法人が保有する収益物件については、経営者の高齢化や事業承継のタイミングと重なるケースが少なくありません。
また、投資用不動産の市場では、国内の個人投資家や法人に加えて、海外資本による取引が一定の存在感を持ってきました。近年は中国資本による取得が減少する一方、売却に関する相談が増加する傾向が見られます。資金力のある個人や法人による現金購入は以前と比較して減少しており、市場全体の需給バランスにも影響を与えている状況です。こうした市況の変化を踏まえたうえで、売却や購入のタイミングを検討することが実務上求められます。
都市部の収益物件については、東京都内や名古屋など主要都市において、賃料水準が大きく下がっていないという実感を持つ実務家も少なくありません。一方で、価格については、以前と比較してやや停滞感が見られる時期もあり、売主・買主双方の価格に対する認識にずれが生じやすい状況が続いています。こうした状況では、周辺の取引事例や賃貸市場の動向を踏まえたうえで、現実的な売出価格を設定することが実務上のポイントになります。あわせて、複数の仲介業者から査定を取得し、価格帯の根拠を比較検討することも、実務上有効な進め方の一つといえます。
投資用不動産を保有する層は、個人投資家、資産管理を目的とした法人、そして相続税対策や法人の節税を目的とした購入者など、多岐にわたります。購入目的が異なれば、重視するポイントも変わってきます。例えば、相続税対策を目的とする場合は評価額や納税資金の確保が重視される一方、キャッシュフローの改善を目的とする場合は利回りや空室リスクが重視される傾向があります。こうした購入目的の違いを踏まえて物件を選定することが、実務上の満足度につながりやすいといえます。
収益物件の仲介・売買に関する制度の概要

収益物件の売買には、居住用不動産と共通する法的な枠組みに加えて、賃貸借契約の承継や敷金・保証金の扱いなど、収益物件特有の実務が関わります。仲介を依頼する場合、宅地建物取引業者が売主・買主双方の意向を踏まえて条件を調整し、契約締結までを支援する形が一般的です。
収益物件の取引では、急ぎの事情がある場合などに買取という手法が選択されることもありますが、実務上は仲介による取引が中心となる場面が多く見られます。仲介の場合、市場価格に近い水準での売却を目指しやすい一方、買主が見つかるまでの期間が読みにくいという特徴があります。売却を検討する際は、仲介と買取それぞれの特徴を理解したうえで、保有目的や資金計画に応じた選択をすることが望ましいです。
| 方式 | 特徴 | 向いているケース |
|---|---|---|
| 仲介 | 市場価格に近い水準での売却を目指しやすい | 売却までにある程度の期間を確保できる場合 |
| 買取 | 売却までの期間が短くなりやすい | 資金化を急ぐ場合や特殊な事情がある場合 |
収益物件の取引においては、金額規模が大きくなる案件や、権利関係が複雑な案件も見られます。こうした案件では、不動産鑑定士による評価や、専門的な法的判断が必要になる場面もあり、外部の専門家と連携しながら取引を進める体制が実務上重要になります。
収益物件の紹介経路としては、既存の取引先や関係士業からの紹介を通じて案件が持ち込まれるケースが多く見られます。個人・法人を問わず幅広い顧客層が対象となりますが、紹介経由の案件では、依頼者との信頼関係がすでに一定程度築かれていることが多く、条件面での調整がスムーズに進みやすいという特徴があります。一方で、初めて取引を行う相手先の場合は、資金計画や取引条件についてより丁寧な確認を行うことが実務上望ましいです。
収益物件の売買契約においては、賃貸借契約の承継に関する取り決めのほか、敷金や保証金の精算方法、修繕義務の所在なども重要な確認事項です。契約書に記載する内容を事前に整理しておくことで、引き渡し後のトラブルを防ぎやすくなります。実務上は、契約締結前の段階で、こうした確認事項をチェックリスト化しておくことも有効な進め方の一つです。
家族信託・民事信託による資産承継の考え方

収益物件を長期にわたり保有する場合、所有者の判断能力が低下した際の管理や、相続発生時の承継方法をあらかじめ検討しておくことが実務上のポイントになります。この点で近年注目されているのが、家族信託や民事信託という仕組みです。家族信託は、財産の所有者があらかじめ信頼できる家族などに財産の管理を託し、契約で定めた目的に沿って管理や運用を行ってもらう制度です。
収益物件のオーナーが家族信託を活用する場合、賃貸経営に関する意思決定を受託者に委ねつつ、賃料収入などの経済的利益は受益者に帰属させる設計が可能です。これにより、所有者の判断能力が低下した後も、賃貸経営を継続しやすい体制を整えることができます。あわせて、相続発生時の財産承継の道筋をあらかじめ定めておくことで、相続人間の調整に要する負担を軽減できる場合もあります。
家族信託の設計にあたっては、信託契約の内容だけでなく、不動産登記における信託の登記、税務上の取り扱いなど、複数の専門分野にまたがる検討が必要です。家族信託の活用を検討する際は、司法書士や税理士など複数の専門家と連携しながら進めることが実務上望ましいです。近年は相続対策や資産承継のニーズの高まりを背景に、家族信託・民事信託への相談件数が増加している傾向も見られます。
家族信託の設計にあたっては、誰を受託者とするか、どの財産を信託財産に含めるか、そして信託の目的をどのように定めるかといった点を、家族間で十分に話し合っておくことが重要です。受託者となる家族が、実際に賃貸経営や財産管理を担えるだけの時間や知識を持っているかどうかも、事前に確認しておきたいポイントです。受託者に一定の負担が生じることを踏まえ、家族全体で役割分担を検討する視点も欠かせません。
また、家族信託は成年後見制度と比較されることが多い制度です。成年後見制度は、家庭裁判所の関与のもとで財産管理が行われる点に特徴がありますが、家族信託は契約に基づいて柔軟な財産管理の設計が可能という点で異なります。どちらの制度が適しているかは、家族構成や財産の内容、本人の意向によって異なるため、個別の状況に応じた検討が求められます。
実務上の注意点

収益物件の売却・購入における留意点
収益物件の売却を検討する際は、賃貸借契約の内容や入居状況が価格に影響を与える点に留意が必要です。空室が多い状態や、賃料が周辺相場と比較して低い水準にある場合、想定していた価格での売却が難しくなることもあります。購入を検討する場合は、表面利回りだけでなく、修繕履歴や将来の空室リスクなども含めた総合的な判断が実務上求められます。
また、法人が保有する収益物件を売却する場合、法人税や消費税の取り扱いが個人の場合と異なる点にも注意が必要です。売却によって生じる利益の計上時期や、消費税の課税区分などは、案件ごとに確認しておきたいポイントです。
購入面では、購入目的が法人の節税なのか、相続税対策なのか、あるいはキャッシュフローの改善なのかによって、検討すべき物件の条件が変わってきます。例えば、相続税対策を目的とする場合は、評価額と時価との差に着目した物件選定が検討材料となる一方、キャッシュフローの改善を目的とする場合は、空室リスクの低さや賃料水準の安定性が重視される傾向があります。購入予算や頭金の水準、取引金融機関との関係性なども、物件選定の前提として整理しておきたい事項です。
収益物件の購入にあたっては、駅からの距離や学区、駐車場の有無といった周辺環境の条件も、賃貸需要に影響を与える要素として確認しておく必要があります。加えて、既に保有している資産を売却する意思があるかどうか、共有名義とするかどうかといった点も、購入計画全体に影響を与えるため、早い段階で整理しておくことが実務上望ましいです。
家族信託の実務上の留意点
家族信託を設計する際は、受託者となる家族の負担や、受託者が適切に管理を行えるかどうかを事前に確認しておくことが実務上重要です。信託契約の内容によっては、受託者の権限や責任の範囲が広くなる場合もあるため、契約書の作成には専門的な検討が求められます。あわせて、信託財産に収益物件が含まれる場合、信託の登記手続きや、賃貸借契約の名義変更なども併せて進める必要があります。
家族信託は成年後見制度と役割が重なる部分もありますが、財産管理の柔軟性という点で異なる特徴を持っています。制度の趣旨や実務上の運用を踏まえたうえで、どちらの制度が状況に適しているかを個別に検討することが望ましいです。
収益物件を信託財産に含める場合には、金融機関との関係にも注意が必要です。信託設定後の物件を担保として借入を行う際、金融機関によって信託財産に対する取り扱いが異なることもあるため、既存の借入がある場合は、事前に取引金融機関へ相談しておくことが実務上のポイントになります。あわせて、信託契約書の内容と、既存の賃貸借契約や管理委託契約との整合性を確認しておくことも欠かせません。
海外資本による取引に関する留意点
海外資本が関わる不動産取引では、国内の取引と比較して確認すべき事項が増える傾向があります。資金の出所確認や、法人を介した取引の場合の実質的な所有者の確認など、慎重な対応が求められる場面があります。近年は現金による大型購入が減少し、売却の相談が増える傾向にあるため、こうした市況の変化を踏まえた価格設定や取引条件の検討が実務上のポイントになります。
海外資本による不動産取引が減少する背景には、各国の資本規制や為替の動向、投資対象としての国内不動産市場の見え方の変化など、複数の要因が関わっていると考えられます。実務上は、特定の国籍や資本の動向のみに着目するのではなく、取引全体の資金の流れや契約当事者の状況を丁寧に確認する姿勢が求められます。特に法人を介した取引では、実質的な所有者や資金の出所について、書類による確認を積み重ねることが望ましいです。
あわせて、他士業との連携体制も実務上の重要な要素です。難易度の高い法律相談や、顧問契約を伴う案件については、既存の弁護士に依頼する体制を維持しつつも、案件の性質に応じて連携先を見直す視点も必要になります。特に、家族信託や民事信託のニーズが今後さらに高まることが想定される中では、司法書士や専門の弁護士との連携体制をあらかじめ強化しておくことが、実務対応の幅を広げることにつながります。
よくある誤解

収益物件の取引や家族信託については、実務の現場でいくつかの誤解が見られます。以下に代表的な例を挙げます。
- 収益物件は仲介より買取の方が常に有利であるという誤解。実際には売却までの期間や資金計画によって適した方式は異なります。
- 家族信託を設定すれば相続対策のすべてが完結するという誤解。信託財産以外の資産や、相続税の負担については別途検討が必要です。
- 家族信託は高額な資産を持つ人だけが対象という誤解。収益物件を保有する個人事業主や小規模な法人でも活用されるケースがあります。
- 海外資本による不動産取得は一貫して増加し続けているという誤解。取得件数の増減は市況や規制動向によって変化します。
こうした誤解は、制度や取引の一部分だけを切り取って理解することから生じやすいと考えられます。収益物件の取引や家族信託の活用を検討する際は、個別の状況に応じた専門的な確認を行うことが実務上望ましいです。
特に、インターネット上の情報は一般的な傾向を紹介するものが多く、個々の家族構成や資産状況、取引条件に当てはめた場合には同じ結論にならないこともある点に留意が必要です。家族信託の設計事例や収益物件の売却事例を参考にする際も、あくまで一つの事例として捉え、自身の状況にそのまま当てはめず、専門家に個別相談したうえで判断することが実務上のポイントになります。
また、制度の内容が改正されたり、実務上の運用が変化したりすることもあるため、過去に得た知識のみに基づいて判断することにも一定のリスクが伴います。定期的に専門家へ相談し、最新の実務動向を確認しておくことも、誤解を防ぐうえで有効な進め方の一つです。制度改正の情報は行政機関の公表資料などで確認できますが、自身の状況への当てはめについては、専門家との対話を通じて確認することが実務上安心につながります。
専門家へ相談するメリット

収益物件の売却・購入や、家族信託を活用した資産承継は、不動産、税務、法務といった複数の分野が関わる分野です。単独の専門家だけで対応するよりも、宅地建物取引士、税理士、司法書士、行政書士など複数の専門家が連携することで、より実務に即した提案が可能になります。
例えば、収益物件の売却にあたっては、宅地建物取引業者による市場動向の把握と、税理士による税務上の影響の試算を組み合わせることで、売却時期や価格設定の判断材料が整理しやすくなります。家族信託の設計にあたっては、司法書士による信託契約書の作成や登記手続きと、税理士による税務上の確認を並行して進めることで、実務上の抜け漏れを防ぎやすくなります。
また、AIやリーガルテックの活用により、契約書のチェックや調査業務の一部は効率化が進んでいます。一方で、顧客の状況を踏まえた提案や、信頼関係の構築といった部分は、引き続き専門家による対応が重要な役割を担うと考えられます。特に、大口の案件や特殊な事情を伴う案件では、不動産鑑定士や弁護士など、より専門性の高い外部の専門家とのネットワークを活用することも実務上有効です。
専門家へ相談することで、法律上の原則と実務上の運用の違いを踏まえた判断がしやすくなる点も、大きなメリットの一つです。法律上判断が分かれる事項については、断定的な結論を急がず、専門家の見解を踏まえて慎重に検討することが望ましいです。
専門家へ相談するタイミングについても、実務上の工夫が可能です。収益物件の売却であれば、売却の意思を固めた段階だけでなく、保有を継続するかどうかを迷っている段階から相談することで、複数の選択肢を比較検討しやすくなります。家族信託についても、相続が発生してからではなく、所有者の判断能力に問題がない段階で検討を始めることが、制度の趣旨に沿った活用につながります。
加えて、収益物件の売却・購入や家族信託の相談は、一度きりで完結するものではなく、状況の変化に応じて継続的に見直しを行うことが望ましい分野です。定期的に専門家との接点を持ち、賃貸経営の状況や家族構成の変化を共有しておくことで、必要なタイミングで適切な提案を受けやすくなります。こうした継続的な関係性は、単発の相談では得られにくい実務上の安心感につながると考えられます。
私たちが実務の現場で意識しているのは、専門家同士が縦割りで対応するのではなく、案件全体を俯瞰しながら連携する姿勢です。収益物件の売却であれば宅地建物取引士と税理士、家族信託であれば司法書士と税理士というように、案件の性質に応じて必要な専門家が連携することで、依頼者にとって一貫性のある提案が可能になります。こうした連携体制は、依頼者が複数の窓口へ個別に相談する手間を減らすとともに、専門家間で情報共有を行うことで、提案内容の一貫性を保ちやすくなるという利点もあります。
収益物件の取引と資産承継を見据えた総合的な対応に向けて

収益物件の売却・購入は、投資判断の観点だけでなく、資産承継や税務上の取り扱いまで含めて検討することが実務上重要です。家族信託や民事信託は、収益物件を長期にわたり保有するオーナーにとって、資産管理と承継を両立させる選択肢の一つとして位置づけられます。あわせて、海外資本による取引動向の変化も踏まえながら、市況に応じた判断を行うことが求められます。
市況は常に変化し続けるものであり、今の時点での判断が数年後も同じように適切であるとは限りません。だからこそ、収益物件のオーナーには、定期的に保有状況を見直し、必要に応じて専門家へ相談する機会を持つことをおすすめします。売却か保有継続かの判断、家族信託の活用の是非、そして資産承継の設計は、いずれも一度決めたら終わりというものではなく、状況の変化に応じて柔軟に見直していく姿勢が実務上望ましいといえます。私たちも、こうした継続的な見直しの過程に寄り添う専門家でありたいと考えております。
収益物件の取引や家族信託の活用にあたっては、不動産、税務、法務それぞれの専門分野を横断した検討が必要になる場面が多く見られます。私たちストラーダグループでは、税理士法人ストラーダ、司法書士法人ストラーダ、行政書士法人ストラーダ、社会保険労務士法人ストラーダ、そして不動産を扱うタックスリアリティが連携し、収益物件の売却・購入から資産承継まで一気通貫でご相談いただける体制を整えております。収益物件の取引や家族信託の活用について確認しておきたい点がございましたら、資産承継全体を見据えたご提案が可能なタックスリアリティへお気軽にご相談ください。
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