不動産の売却は、マイホームや投資用物件といった大きな資産を動かす、一生のうちでも重要な取引です。しかし、売却金額ばかり気にしてしまい、税金や手数料、各種諸経費を差し引いた最終的な手取り額まで正確に把握できていないケースは少なくありません。
実際には、仲介手数料・登記費用・印紙税・譲渡所得税をはじめ、住宅ローンの完済に伴う費用、場合によってはリフォームや測量にかかる費用など、さまざまなコストが売却代金から差し引かれます。さらに、適用できる特例の有無や売却時期の選び方によっては、税負担が数十万〜数百万円規模で変動することもあります。
本記事では、不動産売却の基本的な流れから必要書類、主な費用の内訳までを整理し、手取り額を最大化するために押さえておきたいポイントを、わかりやすく解説します。
Contents
不動産売却とは?

不動産売却とは、土地や建物、区分マンションなどの不動産を第三者へ譲渡し、その対価として売却代金を受け取る取引を指します。住み替えや相続への対応、投資用物件の出口戦略など、売却に至る理由はさまざまですが、いずれの場合においても、適切な手続きを踏みながら有利な条件で進めることが求められます。
不動産売却は、売買契約の締結だけで完了するものではなく、権利関係の確認、住宅ローンの精算、登記申請、税務申告など、複数の専門分野が関わる複雑なプロセスです。
とくに税金や各種手数料は制度が細かく、算出方法がわかりづらいケースも少なくないため、費用負担を十分に理解しないまま進めてしまうと、最終的な手取り額が想定よりも下回ってしまうことがあります。
こうした背景から、不動産売却を成功させるためには、売却価格だけでなく、取引に伴う費用や税負担などコスト全体を見通した計画を立てることが非常に大切です。
不動産売却の基本的な流れ

事前準備
売却を検討し始めたら、まずはご自身の状況を整理することからスタートします。
「なぜ売却したいのか」「いつまでに売却したいのか」「どの程度の手取りを確保したいのか」といった目的や条件が明確になるほど、適切な売却戦略を立てやすくなります。
あわせて、登記簿謄本、固定資産税の納税通知書、住宅ローン残高などの基礎資料を早めに確認しておくと、不動産会社への相談や査定もスムーズです。
不動産会社に査定依頼する
事前準備が整った段階で、不動産会社に査定を依頼します。査定には、周辺データをもとに概算価格を算出する「簡易査定」と、現地で日当たり・眺望・建物の状態・管理状況などを実際に確認したうえで評価する「訪問査定」の2種類があります。
適切な売り出し価格を決めるには、物件の個別要素を反映できる訪問査定の実施が大きな鍵 となります。周辺データだけでは見えにくい条件まで評価に含められるため、実情に即した価格を把握しやすくなります。
また、複数の不動産会社に査定を依頼し、提示された査定額だけでなく、説明の丁寧さ、販売戦略の内容、担当者の姿勢などを総合的に比較検討することが望ましいです。この時点で、売却に伴って発生する税金や諸費用を概算でも確認しておくと、全体の資金計画を検討しやすくなります。
不動産会社と媒介契約を結ぶ
次に、不動産会社へ売却を正式に任せるための「媒介契約」の締結へ進みます。代表的な契約形態は、専属専任媒介契約・専任媒介契約・一般媒介契約の3つです
専属専任媒介・専任媒介の場合は、1社のみに依頼する形となり、販売状況の報告義務やレインズ(不動産流通機構)への登録義務が設定されています。これにより、進捗状況を具体的に把握しやすくなる点が特徴です。
一方、一般媒介は複数の会社に並行して依頼できるため、広く買主候補を募りたい場合に選ばれます。
媒介契約書には、契約期間や仲介手数料の取り決め、広告の方法、報告頻度など重要な条件が盛り込まれます。疑問がある場合はそのままにせず、その場で確認するか、専門家に事前チェックを依頼しておくと安心です。
売却活動を開始する
媒介契約の締結後、本格的な売却活動が始まります。不動産ポータルサイトへの掲載、店頭での紹介、広告媒体を活用した情報発信などを通じて、買主候補へのアプローチが進められます。
また、売却活動の期間中は、内覧の受け入れ準備や日時調整、条件の確認など、売主側にも一定の対応が求められます。室内を整理し、必要な補修やクリーニングを施しておくことで、物件全体の印象をより良く見せることが可能です。
売買契約を結ぶ
購入希望者と条件面での合意が取れたら、「不動産売買契約」を締結します。契約前には、宅地建物取引士から重要事項説明が行われ、物件の権利関係や法令上の制限、管理状況などが詳しく説明されます。
売買契約書には、売買代金・手付金・残代金の金額と支払日・引渡し日・契約不適合責任の範囲・住宅ローン特約の内容・違約時の取り扱いなどが定められます。これらは後のトラブル防止に直結するため、 内容に不明点が残らない状態で署名・押印することが不可欠です。
決済・引渡し
売買契約から通常1〜2か月ほど経過したタイミングで、代金の決済と同時に物件の引渡しが実施されます。決済当日は、売主・買主に加えて、不動産会社、司法書士、金融機関の担当者が同席することが一般的です。
決済の場では、残代金の受け取り・住宅ローン残債の完済・抵当権の抹消の手続き・固定資産税や管理費の精算・所有権移転登記の申請・鍵や関係書類の受け渡しがまとめて行われます。これらが無事に完了すると、売却手続きは実務上の大きな区切りを迎えます。
確定申告
不動産の売却によって利益(譲渡所得)が生じた場合、翌年に確定申告が必要です。譲渡所得は、売却価格から取得費と譲渡費用を差し引き、さらに各種特別控除を引いた金額で計算します。
取得費には、購入時の物件価格だけでなく、仲介手数料や登記費用、購入時の印紙税なども含まれます。譲渡費用としては、売却時の仲介手数料・測量費・建物の解体費などが代表的です。
不動産売却における必要書類のリスト

不動産売却をスムーズに進めるためには、あらかじめ必要書類を把握し、余裕をもって準備しておくことが大切です。ここでは主な書類を一覧表として整理します。
不動産会社に売却を依頼するときに必要な書類
| 書類名 | 主な用途 |
|---|---|
| 本人確認書類 | 売主本人であることを確認し、契約手続きや登記申請に使用する。 |
| 住民票 | 登記情報と現在の住所が一致していることを証明するために提出。 |
| 実印 | 売買契約書や登記書類に正式な意思表示を行うために押印する。 |
| 印鑑証明書 | 実印が本人によるものであることを公的に証明する書類で、登記申請や抵当権抹消手続きに必要。 |
| 登記済権利証(または登記識別情報) | 売主が正当な所有者であることを示す根拠資料として扱われ、所有権移転登記の際に提示する。 |
| 固定資産税納税通知書(または固定資産税評価証明書) | 固定資産税額や評価額を確認するために用いられ、決済時の精算にも活用される。 |
| 建築確認済証・検査済証 | 建物が法令に基づいて建築されていることを証明するための資料。 |
| 地積測量図・境界確認書 | 土地の面積や境界など、不動産の正確な状況を把握するための書類。 |
| マンションの管理規約、議事録、長期修繕計画書 | 管理内容・修繕計画・管理組合の運営状況など、買主が判断する材料として提出する。 |
| 物件状況等報告書 | 設備や建物の状態、不具合の有無などを明確にするための書類で、取引後のトラブル防止に寄与する。 |
| 設備表 | 引渡し対象となる付帯設備の有無・動作状況を一覧化し、売主・買主間の認識を整える役割を持つ。 |
査定や売却の依頼時には登記済権利証、固定資産税の納税 通知書、住宅ローン残高証明書など、物件の基本情報が分かる書類が必要になります。マンションの場合は、 管理規約や議事録、長期修繕計画書 があると、管理状況を正確に伝えやすくなります。
これらの書類がそろっていると、不動産会社は権利関係や面積、法令上の制限まで含めた正確な査定を行うことができます。あわせて、ローン残債や今後の税負担を踏まえた「最低限確保したい売却価格」も検討しやすくなります。
買主に引き渡しをするときの必要書類
| 書類名 | 主な用途 |
|---|---|
| 金融機関口座情報(通帳など) | 残代金の受領や精算金の振込先を確認するために提示する。 |
| 抵当権等抹消書類 | 抵当権をはじめとする担保権を登記上から外すための手続きに用いる。所有権移転の前提となる重要な書類。 |
| 住民票 | 売主の住所情報を確認するための資料として扱われ、登記申請などで添付を求められる場合がある。 |
引渡し時には、所有権移転登記や精算業務を円滑に進めるため、司法書士へこれらの書類を提出または提示します。
銀行口座書類は残代金の振込先を確認するために使われ、抵当権等抹消書類は担保権を外すための登記手続きで不可欠です。また、住民票は売主の住所情報を証明する書類として扱われ、登記申請書類に添付される場合があります。
不動産売却時にかかる主な費用

仲介手数料
不動産会社に支払う成功報酬が「仲介手数料」です。上限額は宅地建物取引業法で定められており、売買価格が400万円を超える場合は、 「売買価格 ×3%+6万円」に消費税を加えた金額が目安 となります。
例えば3,000万円で売却したケースでは、仲介手数料の上限はおよそ100万円前後となります。 一般的な取引では上限額で設定されるケースが多いため、具体的な金額や支払い時期については、媒介契約書で事前に確認しておくことが大切です。
登記費用
売主側で発生する登記費用としては、ローン完済に伴う抵当権抹消登記のほか、登記簿上の住所や氏名が変更されている場合の変更登記などがあります。これらの手続きは司法書士へ依頼するのが一般的で、登録免許税に司法書士の報酬を加えた総額が、売主の負担となります。
物件数や手続き内容によって金額は異なりますが、一般的には数万円程度を見込んでおくと安心です。決済前に司法書士へ見積もりを依頼しておくことで、売却後の手取り額をより正確に把握できます。
印紙税
売買契約書は印紙税の課税文書に該当するため、契約金額に応じた収入印紙を貼付する必要があります。税額は契約金額の区分ごとに定められており、数千円から数万円程度の範囲となるケースが多くみられます。
譲渡所得税と復興特別所得税
売却によって利益が生じた場合、譲渡所得に対して所得税と復興特別所得税が課されます。所有期間が5年以下か5年超かによって適用される税率が大きく異なる点が特徴です。
住宅ローン関連費用
住宅ローンが残っている場合、売却時にローンを一括返済し、抵当権を抹消する手続きが必要になります。その際、金融機関の規定に基づき、繰上返済手数料や事務手数料が生じるケースがあります。
その他諸経費
上記のほかにも、条件次第では追加費用が発生する場合があります。
具体的には、古家付きの土地を更地にして売却する場合は解体費用が必要となり、隣地との境界が不明瞭なケースでは測量費用が生じます。住み替えを伴う売却では、引越し費用や新居との二重家賃が一定期間発生することもあります。
また、室内の印象を整えるためにハウスクリーニングや部分的なリフォームを行うケースもあり、これらも必要に応じて発生する費用として見込んでおく必要があります。
不動産売却にかかる費用を抑えるには?

電子契約を活用
書面で作成する売買契約書には印紙税が課税されますが、電子契約を用いた場合は印紙税が不要 となります。高額な不動産取引では印紙税だけで数万円から数十万円に及ぶこともあり、電子化による費用削減効果は決して小さくありません。
近年は不動産業界全体で電子契約の導入が進んでおり、重要事項説明をオンラインで実施する「IT重説」と組み合わせることで、売主・買主双方の負担も軽減できます。電子契約に対応している不動産会社かどうかは、費用面・利便性の両面で大切な比較ポイントといえるでしょう。
譲渡所得税の特例を利用する
譲渡所得税の負担を抑えるためには、各種特例の活用が大きな効果を発揮します。代表的なものとして、 不動産の売却時に適用できる3,000万円特別控除や、10年以上保有した自宅に認められる軽減税率の特例、相続した空き家を売却する際の特例などがあります。
ただし、特例ごとに適用要件や併用制限が異なり、どの特例を適用するかによって最終的な税負担が大きく変動する可能性があります。
売却する時期を検討する
前述のとおり、不動産の所有期間が5年を超えるかどうかによって税率が大きく変わる点は、不動産売却において重要な判断材料のひとつです。
売却を急がない場合には、売却年の1月1日時点で所有期間が5年を超えているかを確認し、長期譲渡所得が適用される可能性を踏まえて計画を立てておくことが望ましいです。
ふるさと納税を活用
不動産売却によって一時的に所得が増える年は、所得税の負担も大きくなります。そのような年は、ふるさと納税の控除上限額が広がり、通常より多くの寄附を行える可能性があります。
ふるさと納税は、自己負担2,000円で返礼品を受け取りつつ、翌年の所得税や住民税から控除を受けられる制度です。不動産売却に伴う税金そのものを直接軽減する仕組みではありませんが、年間の税負担を総合的に抑える手段として有効な選択肢となります。
不動産の専門家に相談する
不動産売却には、価格の検討、契約書の確認、登記手続き、税務上の判断など、幅広い分野の専門知識が求められます。中でも税務分野は、売却前の選択や手続きの順序によって、最終的な税負担や手取り額が大幅に左右されるため、特に影響の大きい領域といえます。
こうした背景から、検討段階で税理士などの専門家に相談しておくことで、特例の適用可否や適切な売却時期、必要書類といった重要事項を事前に確認でき、合理的な売却計画を立てやすくなります。
正しい戦略で、不動産売却の成功を掴もう

不動産売却では、売却価格だけでなく、仲介手数料・登記費用・印紙税・譲渡所得税・住宅ローン関連費用など多岐にわたるコストが発生します。さらに、適用できる特例の有無や売却時期の判断によって、最終的な手取り額は大きく変わります。
そのため、取引全体のコスト構造を正確に把握し、税務・登記・契約の各プロセスを見据えた計画を立てることが、後悔のない売却を実現するうえで不可欠です。
ストラーダグループでは、不動産・税務・法務の専門家が連携し、売却前の段階から手取り額のシミュレーション、特例の活用可否、最適な売却時期の検討まで、総合的なサポートをご提供 しています。
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