会社を設立したら、税金の届出と並んで、忘れずに行わなければならないのが社会保険の手続きです。「いつから加入するのか」「どこに、何の書類を出せばよいのか」「期限に遅れたらどうなるのか」が分からず、不安に感じている経営者の方も多いのではないでしょうか。
結論からいうと、法人は、代表者1人だけの会社でも、設立と同時に社会保険(健康保険と厚生年金保険)の加入が義務になります。届出の期限の目安は、設立から5日以内です。
この記事では、会社設立後の社会保険の基本、加入のタイミング、必要な書類と手続きの流れ、保険料の考え方、期限に遅れたときの影響、労働保険(雇用保険・労災保険)との違い、2026年時点で知っておきたい制度の動きまで、順を追って解説します。
Contents
社会保険とは?会社設立後に必要な保険の種類

会社の社会保険は、一般に、次の2つに分けられます。
| 区分 | 含まれる保険 | 提出先 |
|---|---|---|
| 社会保険(狭義) | 健康保険、厚生年金保険(40歳以上は介護保険も) | 年金事務所 |
| 労働保険 | 労災保険、雇用保険 | 労働基準監督署、ハローワーク |
この記事で中心に扱うのは、前者の「健康保険・厚生年金保険」です。労働保険は、従業員を雇う場合に必要になる保険で、役員のみの会社では、原則として対象外です。それぞれ、手続きの窓口や、期限が異なります。
役員1人の会社でも、加入が必要
法人の事業所は、従業員の人数にかかわらず、健康保険と厚生年金保険の「強制適用事業所」になります。代表取締役1人だけの会社でも、役員報酬を受けていれば、社会保険に加入しなければなりません。
個人事業主のときは、国民健康保険と国民年金に加入していた方も、法人を設立すると、会社の社会保険に切り替わります。この切り替えが、必要になる点にも注意してください。
役員報酬がゼロの場合
設立の初年度に、役員報酬を支給しない場合は、報酬がない役員は、社会保険の被保険者にはなれません。この場合、国民健康保険と国民年金に、加入し続けることになります。報酬を支給しない期間を設ける場合は、その間の保険の扱いを、確認しておきましょう。報酬を支給する時期が決まったら、改めて、社会保険の手続きが必要になります。
会社設立後、社会保険はいつから加入する?

社会保険の加入の義務は、会社が設立された日(法人の登記を行った日)から生じます。必要な届出は、次のとおりです。
| 届出 | 期限の目安 | 提出先 |
|---|---|---|
| 健康保険・厚生年金保険 新規適用届 | 設立から5日以内 | 会社の所在地を管轄する年金事務所 |
| 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届 | 加入の事実が生じてから5日以内 | 年金事務所または事務センター |
| 健康保険 被扶養者(異動)届 | 資格取得届と同時が目安 | 年金事務所または事務センター |
実際の流れとしては、設立登記が完了し、履歴事項全部証明書(登記簿謄本)が取得できるようになってから、新規適用届を提出します。日本年金機構は、設立から5日以内の提出を案内しています。
5日を過ぎるとどうなる?
5日を過ぎても、届出を受け付けてもらえないわけではありません。ただし、手続きが遅れると、次のような影響が出ることがあります。
- 社会保険の加入の日が、設立の日にさかのぼって扱われる(遡及して、保険料を納める必要が出る)
- 手続きが完了するまでの間に、医療機関にかかる場合、一時的に、保険証が使えない
- 国民健康保険や国民年金に加入していた期間との切り替えの調整が、複雑になる
期限を過ぎてしまった場合も、気づいた時点で、すぐに手続きを進めることが大切です。事情を年金事務所に説明して、指示を受けましょう。
社会保険の加入手続きの流れと必要書類

社会保険の手続きは、次の順番で進めます。
| 順番 | 内容 |
|---|---|
| 1 | 会社の設立登記を行い、履歴事項全部証明書を取得する |
| 2 | 「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」を、年金事務所に提出する |
| 3 | 「被保険者資格取得届」を提出する(役員や従業員が加入する手続き) |
| 4 | 扶養に入る家族がいる場合は、「被扶養者(異動)届」を提出する |
| 5 | 健康保険証や、年金手帳(基礎年金番号)の確認を行う |
新規適用届の添付書類
新規適用届には、次の書類を添付するのが一般的です。
- 履歴事項全部証明書(法人番号を記載する場合は、省略できることがあります)
- 事業所の所在地がわかる書類(賃貸借契約書の写しなど)が、求められることがあります
- 代表者の本人確認の書類
- 預金口座の振替の依頼書(保険料の口座振替を希望する場合)
添付書類は、状況により異なる場合があるため、事前に、年金事務所に確認しておくと確実です。
資格取得届の準備
資格取得届には、役員や従業員の、基礎年金番号や、マイナンバー、報酬の月額などを記入します。役員報酬の金額は、設立の時点で決めておく必要があります。報酬の月額は、保険料の計算の基礎になる、標準報酬月額の決定に使われます。
役員報酬は、原則として、事業年度の途中で自由に変更することができません。定期同額給与のルールがあるため、設立の際に、慎重に決めましょう。
電子申請を使う方法
届出は、窓口や郵送のほかに、電子申請でも提出できます。電子申請には、e-Gov(電子政府の総合窓口)を使う方法があります。また、国の「法人設立ワンストップサービス」を使うと、設立に伴う、税務署や、年金事務所などの届出を、まとめて申請できる場合があります。利用できる手続きの範囲は、変更されることがあるため、利用する前に、公式サイトで確認してください。
専門家に依頼する方法もあります。届出の内容に誤りがあると、将来の年金に影響する場合があるため、自信がない場合は、社会保険労務士などの専門家に依頼するのも一つの方法です。
社会保険料の考え方

社会保険料は、会社と従業員(役員を含む)が、原則として、半分ずつ負担します。これを、労使折半といいます。
保険料の決まり方
保険料は、毎月の報酬(標準報酬月額)に、保険料率をかけて計算します。保険料の主な特徴は、次のとおりです。
- 厚生年金保険の保険料率は、18.3%(労使折半で、それぞれ9.15%)で、固定されている
- 健康保険の保険料率は、加入する健康保険組合や、都道府県(協会けんぽの場合)によって異なり、毎年見直される
- 40歳から64歳までの方は、介護保険料も、あわせて負担する
- 賞与(ボーナス)にも、保険料がかかる
2026年4月からは、医療保険料とあわせて、子ども・子育て支援金の徴収も始まっています。保険料の負担は、年々変わるため、最新の保険料率は、日本年金機構や、協会けんぽの公式サイトで確認してください。
保険料の負担は、会社のコストとして大きい
社会保険料は、会社の負担分が、役員報酬や給与の1割以上になることがあります。たとえば、次の数字は、説明のための仮の例です。役員報酬が、月額50万円の場合、会社の負担する社会保険料は、月に7万円前後になることがあります(健康保険、厚生年金保険、介護保険の保険料率などによって異なります)。
社会保険料の会社の負担分は、資金計画にあらかじめ入れておくことが大切です。役員報酬の金額を決めるときは、会社と個人の両方の負担を、考えて決めましょう。
役員報酬を決めるときの注意点

社会保険料は、役員報酬の金額をもとに計算されるため、報酬の金額は、会社の負担にも、個人の手取りにも、大きく影響します。設立のときに、次の点を確認して、決めましょう。
定期同額給与のルール
役員報酬を、会社の経費(損金)にするためには、原則として、毎月同じ金額を支払う「定期同額給与」にする必要があります。事業年度の途中で金額を変えると、変更した部分が、経費として認められない場合があります。最初に決めた金額は、設立後3か月以内に決めて、その後は、原則として、1年間変えないと考えておくとよいでしょう。
報酬の金額を決めるときに考えること
- 会社の売上と、利益の見通しから、無理なく支払える金額か
- 会社が負担する、社会保険料の金額(報酬の1割以上になることがある)
- 個人の所得税と、住民税、社会保険料を引いた、手取りの金額
- 家族の生活費や、住宅ローンの返済など、個人の支出
- 報酬を高く設定した場合の、将来の年金の増え方
報酬を低めに設定すると、社会保険料の負担は軽くなりますが、将来の年金や、病気やけがのときの手当(傷病手当金など)の金額が、小さくなります。目先の負担だけでなく、将来の保障も含めて、バランスを考えることが大切です。迷う場合は、税理士や社会保険労務士に、相談してみましょう。
設立から社会保険加入までのスケジュールの例

次の表は、会社の設立の日を基準にした、手続きのスケジュールの例です。
| 時期 | 手続き |
|---|---|
| 設立の日(登記の日) | 会社が成立する。履歴事項全部証明書を、取得できるようにする |
| 設立から5日以内 | 年金事務所に、新規適用届と、資格取得届を提出する |
| 設立から10日以内 | 従業員を雇う場合は、労働基準監督署とハローワークに、必要な届出を行う |
| 設立から2か月以内 | 税務署や、自治体に、法人設立届出書を提出する |
| 設立から3か月以内 | 青色申告の承認申請書を、提出する。役員報酬の金額を、確定させる |
| 加入の手続きの完了後 | 健康保険証が届く。国民健康保険と国民年金の脱退の手続きを、市区町村で行う |
個人事業主から法人に切り替えた場合は、国民健康保険や、国民年金の、脱退の手続きが必要です。手続きを忘れると、保険料の二重払いになる場合があるため、保険証が届いたら、早めに、市区町村の窓口へ、届け出ましょう。
手続きをしないとどうなる?未加入のリスク

社会保険の手続きを行わないと、次のようなリスクがあります。
- 年金事務所から、加入の指導を受け、加入の日にさかのぼって、保険料を請求される(過去2年分までさかのぼることがあります)
- 会社の従業員が、社会保険に入れず、会社への信頼や、採用に影響する
- 金融機関の融資や、補助金の審査で、不利になる場合がある
- 法律に定められた罰則の対象になることがある
社会保険に未加入の状態が長く続くと、さかのぼって納める保険料が大きくなり、資金繰りを圧迫します。設立後は、税務の届出とあわせて、社会保険の手続きも、期限内に済ませましょう。
従業員を雇う場合の労働保険の手続き

従業員を雇う場合は、社会保険のほかに、労働保険の手続きも必要です。
| 手続き | 期限の目安 | 提出先 |
|---|---|---|
| 労働保険の保険関係成立届 | 従業員を雇った日から10日以内 | 労働基準監督署 |
| 労働保険の概算保険料の申告・納付 | 保険関係が成立した日から50日以内 | 労働基準監督署または金融機関 |
| 雇用保険の適用事業所設置届 | 設置の日から10日以内 | ハローワーク |
| 雇用保険の被保険者資格取得届 | 雇った月の翌月10日まで | ハローワーク |
役員は、原則として、雇用保険や労災保険の対象になりません。ただし、役員であっても、従業員としての側面が強い場合などは、対象になることがあります。従業員を雇う予定がある場合は、採用の前に、手続きの準備を始めておくとよいでしょう。
社会保険の適用拡大の動き

社会保険の加入の対象となる範囲は、近年、広がってきています。2024年10月から、パートタイマーやアルバイトなどの短時間労働者について、従業員が51人以上の会社で、加入の対象になりました。
さらに、2025年に成立した年金制度の改正により、会社の規模による加入の要件が、段階的に撤廃される予定です。従業員が少ない会社でも、将来的には、短時間で働く人を、社会保険に加入させる必要が出てきます。設立したばかりの会社でも、人を雇う計画がある場合は、今後の動きを、確認しておきましょう。制度の細かい内容は、改正されることがあります。最新の情報は、厚生労働省や日本年金機構の公式サイトで、確認してください。
会社設立後の社会保険でよくある誤解

会社設立後の社会保険については、次のような誤解がよく見られます。
- 社長1人の会社は、社会保険に入らなくてよい → 法人は、役員1人でも加入が必要です。報酬がある場合は、被保険者になります。
- 5日を過ぎたら、手続きができない → 受け付けてもらえますが、遡及の対応が必要になる場合があります。早めに手続きしましょう。
- 国民健康保険のままで、問題ない → 報酬のある役員は、社会保険の対象です。切り替えが必要です。
- 役員は、雇用保険にも入れる → 役員は、原則として、雇用保険の対象外です。
- 保険料は、従業員が全額負担する → 会社が、半分を負担します。会社のコストとして、計画に入れましょう。
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※本記事は、2026年10月時点の情報をもとに作成しています。社会保険の手続きや、保険料率は、変更されることがあります。申請の前に、日本年金機構などの公式情報をご確認ください。




