外国人の従業員が退職して母国に帰るときや、海外に移り住むときには、日本での税金の手続きを出国前に済ませておく必要があります。会社が行う年末調整、本人が行う確定申告、出国後の手続きを任せる納税管理人の選任など、確認すべきことは少なくありません。本人が日本で会社を経営していた場合は、その会社を解散するかどうかも検討が必要です。
出国後に手続きの漏れが見つかると、海外から対応しなければならず、本人にとっても会社にとっても大きな負担になります。出国の日が決まったら、早めに準備を始めることが大切です。
この記事では、外国人従業員が出国するときに会社と本人が行う税金の手続き、納税管理人の役割、住民税の扱い、本人が経営する会社を解散する場合の流れを解説します。
Contents
外国人従業員が出国するときに必要な税金の手続き

日本の所得税では、日本に住所がある人などを「居住者」、それ以外の人を「非居住者」として区別し、課税のしかたを変えています。出国して日本に住所がなくなると、その日から非居住者になります。そのため、出国の前後で必要な手続きが変わります。主な手続きは次のとおりです。
| 手続き | 行う人 | 時期の目安 |
|---|---|---|
| 出国時の年末調整 | 会社 | 出国の日までに支払う最後の給与で精算 |
| 確定申告 | 本人 | 出国前、または納税管理人を選任して翌年の申告期限まで |
| 納税管理人の届出 | 本人 | 出国前に税務署へ提出 |
| 住民税の精算 | 会社・本人 | 退職・出国の前に納付方法を決める |
会社が行う出国時の年末調整

年の途中で出国して非居住者になる従業員については、出国の日までに支払った給与について、会社が年末調整を行います。通常は12月に行う年末調整を、出国の前に行うイメージです。
年末調整で精算する内容
出国時の年末調整では、その年の1月から出国の日までに支払った給与と源泉徴収した税額をもとに、1年分の所得税を計算し直して精算します。生命保険料控除や扶養控除などの申告書を、出国前に従業員から提出してもらう必要があります。精算した後は、源泉徴収票を本人に渡します。
出国時の年末調整で注意したい控除
出国時の年末調整では、通常の年末調整と異なる点があります。主な注意点は次のとおりです。
- 生命保険料や地震保険料、社会保険料の控除は、出国の日までに支払った金額が対象になる
- 配偶者や扶養親族に当たるかどうかは、出国の日の現況で判定する
- 扶養親族の所得の見積もりは、出国の日までではなく、その年の1年間の見込みで判定する
- 出国した後に支払う給与は、年末調整の対象に含めない
特に、出国前に従業員から扶養控除等申告書や保険料控除申告書を回収できていないと、正しく精算できません。出国日が決まった時点で、必要な書類を従業員に案内しておくことが大切です。
退職してから出国までに間がある場合
退職の日と出国の日が離れている場合は、退職した時点で会社の手続きが終わり、本人が自分で確定申告をして精算することになる場合があります。退職日と出国日、最後の給与の支払日を確認し、誰がどの時点で精算するのかを本人と会社で共有しておくことが大切です。
本人が行う確定申告と納税管理人

年末調整だけで精算が終わらない場合や、税金の還付を受けたい場合は、本人が確定申告を行います。
確定申告が必要になる主なケース
出国する年に、次のような事情がある場合は確定申告が必要、または申告をしたほうが有利になります。
- 年末調整を受けていない給与がある
- 給与以外に、副業の収入や不動産の収入などがある
- 医療費控除などを受けて、税金の還付を受けたい
医療費控除は年末調整では受けられないため、医療費が多くかかった年は、確定申告をすることで税金が戻る可能性があります。領収書などの資料は、出国前にまとめておきましょう。
出国前に申告するか、納税管理人に任せるか
出国する年の確定申告は、出国前に済ませる方法と、納税管理人を選任して出国後に申告する方法があります。納税管理人を選任しないまま出国する場合は、出国の時までに確定申告と納税を済ませる必要があります。一方、出国前に納税管理人を選任して届け出ておけば、翌年の通常の申告期限までに、納税管理人を通じて申告できます。年の途中で出国する場合は、その年の収入がそろうのを待ってから申告できるため、納税管理人を選任するほうが手続きを進めやすいこともあります。
出国前に確定申告をする場合の進め方
納税管理人を選任せずに出国前に申告する場合は、その年の1月1日から出国の日までの所得について申告します。会社から受け取った源泉徴収票、保険料の控除証明書、医療費の領収書などをそろえ、出国の日までに税務署へ提出して納税を済ませます。年の途中のため、控除証明書などがまだ届いていない場合もあるので、必要な書類を早めに保険会社などに依頼しておきましょう。e-Taxを使えば自宅から提出することもできますが、出国前は引越しなどで忙しくなるため、日程に余裕を持って準備することが大切です。
納税管理人とは?選任と届出の方法
納税管理人とは、日本に住所がない人に代わって、税務署からの書類の受け取りや、申告書の提出、税金の納付などを行う人です。日本に住んでいる個人や法人を選ぶことができ、家族や知人のほか、税理士に依頼することもできます。納税管理人を選んだら、「所得税・消費税の納税管理人の届出書」を所轄の税務署に提出します。この届出書は所得税などの国税についてのものなので、住民税については別に、住んでいた市区町村へ納税管理人の申告をする必要があります。家族や知人に頼む場合は、申告書の作成まで任せられるかどうかも考えておきましょう。税理士に依頼すれば、申告書の作成から税務署とのやり取りまでをまとめて任せることができます。
届出は、出国前に済ませておくことが大切です。出国後に手続きを進めようとすると、本人との連絡や書類のやり取りに時間がかかります。還付金がある場合に、還付金を誰の口座で受け取るかも事前に決めておきましょう。
住民税の扱いと精算の方法

住民税は、その年の1月1日に住所がある市区町村で、前の年の所得をもとに課税されます。そのため、年の途中で出国しても、その年度の住民税は納める必要があります。
退職時に残りの住民税をどう納めるか
会社の給与から住民税を差し引いている場合は、退職するときに、残りの住民税をどう納めるかを決める必要があります。最後の給与や退職金からまとめて差し引く方法(一括徴収)のほか、本人が自分で納める方法もあります。なお、1月1日から4月30日までの間に退職する場合は、原則として最後の給与や退職金から残りの住民税を一括徴収することになっています。出国後に納付書が届いても本人が受け取れないため、出国前にまとめて納めるか、住民税の納税管理人を決めて市区町村に届け出ておきましょう。
出国した翌年以後の住民税
出国した翌年の1月1日に日本に住所がなければ、その翌年度の住民税は課税されません。つまり、出国した年の所得には、原則として住民税がかからないことになります。ただし、出国した年度の住民税(前の年の所得に対する分)は残っているため、その納付を済ませておく必要があります。手続きの詳細は、住んでいた市区町村に確認しましょう。
会社を残したまま出国する場合の注意点
解散の手続きをせずに出国すると、会社は存続しているため、事業をしていなくても毎年の申告や、法人住民税の均等割の納付が続くことがあります。申告をしないまま放置すると、無申告加算税などがかかるおそれがあります。また、株式会社は最後の登記から12年を経過すると、法務局の手続きによって解散したものとみなされることがありますが、それで税金の申告義務がなくなるわけではありません。会社を続けるのか閉じるのかを、出国前に決めておきましょう。
出国後に支払われる給与・退職金の税金

出国して非居住者になった後に、日本の会社から給与や退職金が支払われることがあります。非居住者に支払う給与や退職金は、居住者の場合とは源泉徴収のしかたが異なるため、会社の担当者は注意が必要です。
出国後に支払う給与
たとえば、月末締め・翌月25日払いの会社で、従業員が月末に出国した場合、最後の給与は出国後に支払うことになります。この場合、日本での勤務に対する給与は、非居住者に対する国内源泉所得として、原則として20.42%の税率で源泉徴収を行います。居住者のときに使う源泉徴収税額表は使えず、出国時の年末調整の対象にもなりません。次の数字は説明のための仮の例です。出国後に支払う最後の給与が30万円で、全額が日本での勤務に対するものだとすると、源泉徴収する所得税は30万円×20.42%=61,260円になります。最後の給与の支払日が出国の前か後かによって扱いが変わるため、事前に確認しておきましょう。
出国後に支払う退職金
非居住者に支払う退職金も、日本での勤務に対応する部分について、原則として20.42%の税率で源泉徴収を行います。ただし、本人が「退職所得の選択課税」の申告をすれば、居住者と同じように退職所得控除などを使って計算した税額との差額の還付を受けられる場合があります。この申告は出国後に行うため、納税管理人を選任しておくと手続きを進めやすくなります。
厚生年金の脱退一時金
厚生年金に加入していた外国人が出国し、日本の年金を受け取る要件を満たさない場合は、出国後に脱退一時金を請求できることがあります。脱退一時金は、支払われるときに20.42%の所得税が源泉徴収されますが、退職所得の選択課税の申告をすることで、源泉徴収された税額の全部または一部が戻ることがあります。脱退一時金の請求そのものは年金の手続きのため、社会保険労務士などに確認しましょう。
本人が経営する会社を解散する場合の流れ

外国人の従業員が、副業などで日本に会社を設立している場合もあります。出国後に会社を続けないのであれば、会社を解散して清算する手続きを検討します。
解散と清算の主な流れ
会社を閉じるには、株主総会で解散を決議し、解散の登記をしたうえで、資産や負債を整理する清算の手続きを行い、最後に清算結了の登記をします。登記の手続きは司法書士に依頼できます。債権者に対して2か月以上の期間を定めて官報で公告するなど、法律で決められた手続きもあるため、解散から清算の完了までは少なくとも2か月以上かかります。
解散したときの税金の申告
会社を解散した場合は、事業年度の開始の日から解散の日までを1つの事業年度として、解散の日の翌日から2か月以内に確定申告を行います。その後も清算が終わるまでは、事業年度ごとに申告が必要です。さらに、残った財産が確定したときは、原則としてその日の翌日から1か月以内に清算確定申告を行います。事業の実態がない会社でも、法人住民税の均等割がかかる場合があり、扱いは自治体によって異なります。出国までに解散の手続きを始め、出国後の申告を誰が行うかを決めておくことが大切です。
出国が決まったら確認したいスケジュールとチェックリスト

出国の日が決まったら、会社と本人で次のような順番で準備を進めると、手続きの漏れを防ぎやすくなります。
| 時期の目安 | 主な準備 |
|---|---|
| 出国の1〜2か月前 | 退職日・出国日・最後の給与の支払日を確定し、年末調整と確定申告のどちらで精算するかを決める |
| 出国の1か月前 | 納税管理人を決め、保険料控除の証明書や医療費の領収書など、申告に必要な資料を集める |
| 出国の前 | 納税管理人の届出書を税務署と市区町村に提出し、住民税の納付方法を確定させる |
| 出国の後 | 納税管理人が源泉徴収票などを受け取り、必要に応じて確定申告や選択課税の申告を行う |
あわせて、次の点も確認しておきましょう。
- 会社は、出国後の連絡先(海外の住所やメールアドレス)を本人から聞いておく
- 本人は、源泉徴収票の送付先を納税管理人の住所にしてもらう
- 還付金を受け取る口座は、出国後も使える口座か、納税管理人の口座を指定する
- 本人が日本に不動産や株式などの財産を持ち続ける場合は、出国後の収入の申告についても納税管理人と確認する
出国前に確認しておきたい税金以外の手続き

出国前には、税金のほかにも次のような手続きがあります。それぞれの専門家に早めに確認しておきましょう。
- 健康保険や年金の手続き(厚生年金の脱退一時金の請求など)は、社会保険労務士に相談する
- 在留資格に関する手続きは、行政書士などに相談する
- 銀行口座や携帯電話の解約は、税金の還付金の受け取りや連絡手段に影響するため、時期を検討する
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※本記事は、2026年10月時点の法令をもとに作成しています。個別のご判断は、状況によって異なります。




