個人事業主として事業が軌道に乗り、売上や利益が増えてくると、「法人成り(会社を設立して、個人事業を法人に切り替えること)をしたほうが、得になるのではないか」と考える方が増えてきます。確かに、利益が大きくなると、法人のほうが税金の面で有利になる場合があります。しかし、法人にすると、社会保険の負担や、設立と維持の費用など、新しく増える負担もあります。
この記事では、個人事業主が会社を設立すると、どのような点が変わるのかを、税金、経費の範囲、信用、社会保険の面から整理します。あわせて、会社設立にかかる費用、法人成りの手続きの流れ、判断のポイントも解説します。「法人にすれば必ず得をする」わけではないため、自分の状況に当てはめて、考えるための材料にしてください。
なお、税率や費用は、改正されることがあります。この記事は、2026年10月時点で、国税庁、日本公証人連合会などの情報をもとにしています。実際に判断するときは、最新の情報を確認し、専門家にご相談ください。
Contents
個人事業主と法人の違い

まず、個人事業主と法人の、主な違いを整理します。
| 項目 | 個人事業主 | 法人(会社) |
|---|---|---|
| 事業の主体 | 経営者個人 | 会社そのもの(経営者とは別の存在) |
| 所得にかかる税金 | 所得税(5%から45%) | 法人税(15%または23.2%) |
| 経営者本人の収入 | 事業の利益そのもの(給与ではない) | 会社から受け取る役員報酬(給与) |
| 社会保険 | 国民健康保険、国民年金 | 健康保険、厚生年金(原則として加入) |
| 設立の手続き | 開業届を提出するだけ | 定款の作成、認証、登記が必要 |
| 赤字のときの負担 | 原則なし(個人住民税などは別) | 法人住民税の均等割は、赤字でも発生 |
税金はどう変わる?

個人事業主の所得税
個人事業主は、事業の利益(所得)から、所得控除を差し引いた金額に対して、所得税がかかります。国税庁のタックスアンサーによると、所得税の税率は、課税される所得金額に応じて、5%から45%までの7段階に区分されています(累進課税)。主な区分は、次のとおりです。
| 課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 195万円未満 | 5% | 0円 |
| 195万円以上330万円未満 | 10% | 9万7,500円 |
| 330万円以上695万円未満 | 20% | 42万7,500円 |
| 695万円以上900万円未満 | 23% | 63万6,000円 |
| 900万円以上1,800万円未満 | 33% | 153万6,000円 |
| 1,800万円以上4,000万円未満 | 40% | 279万6,000円 |
| 4,000万円以上 | 45% | 479万6,000円 |
このほか、復興特別所得税(基準所得税額の2.1%)や、個人住民税、個人事業税もかかります。所得が増えるほど、税率が上がるため、利益が大きい個人事業主ほど、税負担が重くなります。
法人の法人税
法人にすると、会社の利益に、法人税がかかります。国税庁のタックスアンサー(令和8年4月1日現在法令等)によると、資本金1億円以下の普通法人(一定の法人を除く)の税率は、所得が年800万円以下の部分は15%、年800万円を超える部分は23.2%です。所得税と違い、利益が大きくなっても、税率の上がり方が緩やかです。
法人税のほかに、地方法人税、法人事業税、法人住民税などもかかります。これらを含めた、税負担の合計は、会社の所在地や、所得の額によって変わります。
損得の分かれ目は、いくら?
法人化が有利になる、利益の目安は、よく「事業の利益が500万円から800万円を超えるあたり」といわれます。ただし、これは一般的な目安にすぎません。実際の損得は、次のような条件によって、変わります。
- 経営者本人の役員報酬の額(報酬を多くすれば、法人の利益は小さくなる)
- 家族への給与の有無
- 社会保険料の負担
- 経営者の所得控除の状況(扶養家族の有無など)
- 設立と維持にかかる費用(税理士報酬など)
目安だけで判断せず、自分の状況で、法人化した場合と、個人事業主のままの場合の、税金や社会保険料を、試算して、比べることが大切です。
経費の範囲や、信用の面での違い

役員報酬という形で、経営者の収入を経費にできる
個人事業主は、経営者本人への報酬を、経費にできません。事業の利益が、そのまま経営者の所得になります。一方、法人は、経営者に支払う役員報酬を、経費にできます(一定のルールがあります)。受け取る役員報酬には、給与所得控除が適用されるため、個人事業主のときよりも、所得税の計算上、有利になる場合があります。
家族への給与
個人事業主は、青色申告をして、一定の手続きをすれば、家族に支払う給与を経費にできますが、手続きや金額に、制限があります。法人は、家族を従業員として雇い、適正な給与を支払えば、経費にできます。
赤字の繰り越し
青色申告をしている個人事業主は、赤字(純損失)を、翌年以降の3年間、繰り越せます。法人の場合は、青色申告であれば、欠損金を、原則として、10年間繰り越せます。赤字が出る可能性がある事業では、繰越期間が長い法人のほうが、有利になる場合があります。
取引先や、金融機関からの信用
法人は、登記によって、会社の存在が公に示され、組織としての体制を整える必要があるため、個人事業主より、社会的な信用が高くなる傾向があります。取引先によっては、法人としか取引しないという会社もあります。また、銀行からの融資を受けやすくなったり、人材を採用しやすくなったりする場合もあります。
法人にすることで、負担が増える点

社会保険への加入
法人は、社長1人の会社であっても、原則として、健康保険と厚生年金保険への加入が必要です。保険料は、会社と本人が、折半して負担します。個人事業主のときの、国民健康保険と国民年金と比べると、負担が増える場合があります。一方で、厚生年金に加入することで、将来の年金額が増えたり、傷病手当金などの保障が、受けられたりするメリットもあります。具体的な加入の手続きや、保険料の額は、年金事務所や、社会保険労務士に確認してください。
赤字でも、法人住民税の均等割がかかる
法人住民税の均等割は、資本金等の額と、従業者の数に応じて決まる、定額の税金で、赤字でも納める必要があります。事務所のある自治体によって金額が異なるため、各自治体の窓口で、確認してください。
会計や税務の手続きが、複雑になる
法人は、複式簿記による、正確な帳簿の作成が必要で、決算書や申告書の作成も、複雑です。多くの会社が、税理士に、決算や申告を依頼しており、その報酬が、毎年の費用として、かかります。
会社のお金と、個人のお金を分ける必要がある
法人の資金は、経営者個人のものではありません。会社のお金を、個人的な目的で使うと、役員貸付金や、役員報酬の扱いとなり、税務上の問題が生じることがあります。会社と個人の資金を、明確に分けて管理する必要があります。
会社設立にかかる費用

会社設立には、法定の費用がかかります。株式会社の設立にかかる、主な費用は、次のとおりです。
| 費用 | 金額の目安 |
|---|---|
| 定款認証手数料 | 資本金の額に応じて、3万円から5万円(条件により減額される場合がある) |
| 収入印紙(紙の定款の場合) | 4万円(電子定款の場合は不要) |
| 謄本の発行手数料 | 1枚250円(数枚で、2,000円程度) |
| 登録免許税 | 資本金の額の1,000分の7(最低15万円) |
日本公証人連合会によると、定款認証の手数料は、資本金の額が100万円未満の場合は3万円、100万円以上300万円未満の場合は4万円、それ以外は5万円です。令和6年12月以降は、資本金が100万円未満の株式会社で、発起人全員が自然人で3人以下、発起人が設立時発行株式の全部を引き受ける旨の記載があり、取締役会を置く旨の記載がないなどの条件を満たす場合は、1万5,000円に減額されます。
登録免許税は、国税庁の税額表によると、株式会社の設立登記は、資本金の額の1,000分の7ですが、これによって計算した額が15万円に満たないときは、15万円です。合同会社の場合は、資本金の額の1,000分の7で、6万円に満たないときは、6万円です。
したがって、株式会社の設立には、最低でも、20万円前後の、実費がかかります。電子定款を利用すると、収入印紙の4万円が不要になるため、費用を抑えられます。司法書士や、税理士に、設立の手続きを依頼する場合は、別に、報酬がかかります。
個人事業主が法人化する手続きの流れ

法人成りの、一般的な流れは、次のとおりです。
設立する会社の内容を決める
会社の商号、事業の目的、本店の所在地、資本金の額、役員、事業年度などを決めます。会社の形態(株式会社か、合同会社か)も、選びます。
定款の作成と認証、登記
定款を作成し、株式会社の場合は、公証役場で認証を受けます。資本金を払い込んだうえで、法務局に、設立の登記を申請します。登記が完了した日が、会社の設立の日です。
税務署などへの届出
設立後、税務署や自治体に、法人設立届出書、青色申告の承認申請書、給与支払事務所等の開設届出書などを、提出します。期限があるため、注意してください。
個人事業の廃業の手続き
個人事業を、法人に切り替える場合は、個人事業の廃業の届出を、税務署に提出します。廃業の届出書の提出期限は、廃業の事実があった日から1か月以内です。個人事業のときに受けていた、青色申告の取りやめの手続きも、必要になる場合があります。
事業の引き継ぎ
個人事業の資産(機械、備品、在庫、売掛金など)や、契約、取引先を、法人に引き継ぎます。引き継ぎの方法(売却、現物出資、貸付など)によって、税金の取扱いが異なるため、税理士に確認してください。許認可が必要な事業は、法人として、許認可を新しく取得し直す必要がある場合が多いため、早めに、所管の官庁に確認します。
法人化するかどうかの判断のポイント

法人化を検討するときは、次のようなポイントを、確認してください。
- 事業の利益が、安定して、一定の水準を超えているか
- 今後も、利益が増える見込みがあるか
- 取引先や、金融機関から、法人であることを、求められているか
- 従業員を雇う、または、家族に給与を支払う予定があるか
- 社会保険料や、税理士報酬など、法人になって増える負担を、まかなえるか
- 許認可が必要な事業で、法人として、許認可を取得できるか
利益が小さい間は、個人事業主のままのほうが、負担が軽いことも少なくありません。一方、利益が大きく、取引の拡大や、人材採用を考える場合は、法人化のメリットが、大きくなります。
消費税とインボイスの扱い

法人成りをすると、消費税の納税義務の判定は、個人事業主のときと別に、法人ごとに行います。国税庁のタックスアンサーによると、設立したばかりの法人で、資本金が1,000万円以上の場合は、設立1期目から、課税事業者になります。個人事業主のときに、インボイスの登録をしていた場合も、法人は別の事業者であるため、法人として、あらためて、登録の申請が必要です。取引先に影響が出ないよう、法人成りの前に、手続きの時期を、確認しておきましょう。
法人成りのよくある質問

Q1. 個人事業主のまま、売上が1,000万円を超えたら、法人化したほうがよいですか?
売上が1,000万円を超えると、消費税の課税事業者になる可能性があります。ただし、法人化するかどうかは、売上ではなく、利益や、取引先の状況、社会保険料の負担などで、判断します。消費税だけを理由に、法人化を決めるのではなく、全体の負担を、比べてください。
Q2. 法人化の時期は、いつがよいですか?
決まった時期はありませんが、個人事業主の年度(1月から12月)の区切りや、法人の決算月を考えて、設立の日を決める方が多くいます。設立の日によって、第1期の長さや、各届出の期限が変わるため、税理士と、スケジュールを確認してください。
Q3. 法人化したあと、個人事業に戻れますか?
法人を解散して、個人事業主に戻すことは、可能ですが、清算の手続きなど、手間と費用がかかります。法人化の判断は、慎重に行ってください。
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※本記事は、2026年10月時点の情報をもとに作成しています。税率や費用は変更されることがあるため、手続きの前に、国税庁、日本公証人連合会などの公式情報をご確認ください。




