会社を設立する際、税金対策は重要なポイントのひとつです。個人事業主として事業を行っている方が、「法人にしたほうが、税金は安くなるのか」と考えて、会社の設立(法人成り)を検討するケースも多くあります。
会社を設立すると、役員報酬の設定、退職金、赤字の繰り越し、消費税の免税など、個人事業主にはない、税金の選択肢が増えます。一方で、社会保険料の負担や、決算・申告にかかる費用など、法人になることで増えるコストもあるため、メリットだけで判断するのは危険です。
この記事では、会社設立によって使える、税金対策のメリットを7つに整理して解説します。それぞれの注意点や、法人成りで増えるコスト、法人成りのタイミングの考え方も、あわせてまとめました。これから会社を設立される方、または設立後の経営をより効率的にしたい方は、ぜひ参考にしてみてください。
Contents
会社設立による税金対策のメリット7選

会社設立に伴う税金対策のメリットは、次の7つです。
| 順番 | メリット |
|---|---|
| 1 | 役員報酬を経費にできる(給与所得控除も使える) |
| 2 | 家族に給与や役員報酬を支払い、所得を分散できる |
| 3 | 役員退職金を、経費として支払える |
| 4 | 保険や共済を、活用できる |
| 5 | 利益が大きくなると、税率の面で有利になる |
| 6 | 赤字(欠損金)を、10年間繰り越せる |
| 7 | 消費税の納税が、一定期間免除される |
どの対策も、条件や注意点があります。ひとつずつ、見ていきましょう。
1.役員報酬を経費にできる
個人事業主の場合、売上から経費を引いた金額の全額が、事業所得として課税されます。事業主自身への報酬を、経費にすることはできません。
一方、会社を設立した場合、会社から役員(社長など)に支払う報酬は、会社の経費(損金)になり、その分だけ、会社の課税所得を減らせます。役員個人は、この報酬を「給与」として受け取るため、給与所得控除が適用されます。給与所得控除は、収入に応じて決まる、経費のようなもので、最低で65万円、上限は195万円です。
たとえば、会社の利益が1,000万円で、そのうち600万円を役員報酬として支払う場合、会社の課税所得は400万円に減ります。役員個人は、600万円の給与収入から、給与所得控除を引いた金額に、所得税と住民税がかかります。会社と個人の、両方に税金がかかりますが、税率の低い部分を、うまく使い分けることで、全体の税負担を、抑えられる場合があります。
役員報酬の注意点(定期同額給与)
役員報酬を経費にするためには、原則として、毎月同じ金額を支払う「定期同額給与」にする必要があります。事業年度の途中で、金額を上げたり下げたりすると、変更した部分が、経費として認められない場合があります。設立後3か月以内に、金額を決めて、その後は、原則として、1年間変えないようにしましょう。
また、役員報酬の金額は、社会保険料にも影響します。報酬を高くすると、社会保険料の負担も、大きくなります。税金と社会保険料の、両方を考えて決めることが大切です。
2.家族に給与を支払い、所得を分散する
会社を設立すると、家族に給与や役員報酬を支払い、家族の間で、所得を分散できます。所得税は、所得が多いほど税率が高くなる、累進課税です。1人に所得が集中するよりも、家族に分散するほうが、全体の所得税の負担を、抑えられる場合があります。家族にも、給与所得控除が適用されるため、さらに効果が高まります。
個人事業主の場合も、家族に給与を支払うことは可能ですが、青色事業専従者給与の届出が必要で、金額や、条件に制限があります。法人であれば、家族の仕事の内容に見合った、適正な金額であれば、より柔軟に、給与を設定できます。
家族への給与の注意点
家族に支払う給与は、実際に働いた内容に見合った金額でなければ、経費として認められません。実際には、ほとんど働いていない家族に、高額な給与を支払うと、不相当に高額な部分が、経費として否認される可能性があります。また、家族を役員にする場合も、実際に、会社の経営に関わっていることが必要です。
家族が、一定の収入を超えると、扶養から外れ、社会保険料の負担が生じる場合もあります。家族の収入の金額は、扶養や、社会保険の制度も考えて、決めましょう。
3.役員退職金を、経費として支払える
法人は、役員が退任するときに、役員退職金を支払うことができ、この退職金は、会社の経費になります。個人事業主には、自分自身への退職金を、経費にする制度はありません。
受け取る役員の側も、退職金には、税制上の優遇があります。退職金は、他の所得とは別に計算され、次の2つの優遇が受けられます。
- 退職所得控除:勤続年数に応じた控除額を、退職金から差し引ける(勤続20年以下は、1年あたり40万円。20年を超える部分は、1年あたり70万円)
- 2分の1課税:控除後の金額の、2分の1だけが、課税の対象になる
ただし、勤続年数が5年以下の役員が、受け取る退職金には、この2分の1課税は、使えません。また、退職金の金額が、役員の功績などに対して、あまりに高い場合は、不相当に高額な部分が、経費として認められない可能性があります。適正な金額と、支払いの手続きを、事前に、税理士に確認しておきましょう。
個人事業主の場合は、小規模企業共済という制度に加入して、将来の退職金の準備をする方法があります。掛金は、全額が所得控除の対象になります。
4.保険や共済を、活用する
法人は、個人事業主と比べて、保険や共済を、経営の対策として、活用しやすい面があります。主な制度は、次のとおりです。
- 中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済):取引先の倒産に備える制度。掛金は、経費にできる
- 小規模企業共済:役員や個人事業主の、退職金の準備の制度。掛金は、所得控除の対象になる
- 法人向けの生命保険:保険料の一部または全部を、経費にできる商品がある
法人向けの生命保険は、以前は、保険料の全額を経費にでき、解約したときに、ほとんどのお金が戻ってくる商品が、節税策として使われていました。しかし、2019年に、税務上の取り扱いが見直され、保険料を、経費にできる割合が、制限されるようになりました。
保険は、税金を減らすというより、課税を先送りする性質が強いことに、注意が必要です。保険の解約や、満期のときの、返戻金には、税金がかかります。保険の目的は、あくまで、万一の保障や、事業の備えです。節税だけを目的に、加入すると、資金が長期間、拘束されるおそれがあります。
5.利益が大きくなると、税率の面で有利になる
個人事業主の所得税は、所得が増えるほど、税率が上がり、所得税と住民税を合わせた最高の税率は、約55%になります。一方、法人の実効税率(法人税、地方法人税、事業税、住民税を合わせた税率)は、中小企業の場合、所得が年800万円以下の部分で、約21%前後、800万円を超える部分で、約33%から34%程度です。
このため、事業の利益が大きくなると、法人のほうが、税率の面で有利になる傾向があります。一般的には、利益が、おおむね500万円から800万円を超えるあたりから、法人成りを検討する目安になる、といわれています。
税率だけで判断しない
ただし、税率だけで、法人成りを判断するのは、危険です。法人にすると、次のようなコストが増えるためです。
- 社会保険料の負担(法人は、役員1人でも、加入が必要)
- 法人住民税の均等割(赤字でも、最低年7万円程度)
- 決算・申告にかかる、税理士への報酬
- 会社設立にかかる費用(株式会社で、法定費用だけで、20万円強)
- 会社と個人のお金を分ける、経理の手間
利益が少ない段階では、これらのコストのほうが、節税の効果より大きくなり、かえって、負担が増えることもあります。法人成りを検討するときは、税金だけでなく、社会保険料も含めた、全体の負担を、試算して、判断しましょう。
6.赤字を、10年間繰り越せる
事業の売上が、経費を下回り、赤字(欠損金)が出た場合、その赤字を、翌年以降に繰り越して、将来の黒字と相殺できる制度があります。この制度を使うには、青色申告の承認を受けている必要があります。
繰り越せる期間は、個人事業主が3年間なのに対し、法人は10年間です(2018年4月1日以後に始まる事業年度に生じた赤字の場合)。創業の当初は、赤字になりやすいため、赤字を長期間、繰り越せることは、法人の大きなメリットです。
赤字の繰り越しを使うには、赤字の年も、期限内に、申告書を提出しておくことが必要です。また、青色申告の承認申請書は、期限があるため、設立後すぐに準備しましょう。
7.消費税の納税が、一定期間免除される
消費税は、原則として、2年前の課税売上高(基準期間の課税売上高)が、1,000万円を超えると、納税の義務が生じます。新しく設立した法人は、基準期間がないため、資本金が1,000万円未満であれば、原則として、設立後の最初の2期は、消費税の納税が免除されます。
個人事業主が、法人成りをする場合も、法人としては、新しく設立した会社として扱われるため、この免税の対象になり得ます。
消費税の免税の注意点
免税には、次のような注意点があります。
- 1期目の最初の6か月(特定期間)の課税売上高、または給与の支払額が、1,000万円を超える場合は、2期目から、課税事業者になる
- インボイス(適格請求書)の発行事業者として登録すると、免税の対象にならない
- 親会社などの規模によっては、「特定新規設立法人」として、免税の対象外になる
- 資本金を1,000万円以上にすると、1期目から、課税事業者になる
また、インボイス制度の導入に伴い、納税額を、売上にかかる消費税の2割に抑える「2割特例」がありましたが、法人については、2026年9月30日を含む課税期間までで、終わっています。2026年10月以降に設立する法人は、インボイスを登録するかどうかや、簡易課税制度を選ぶかどうかを、慎重に検討する必要があります。
法人成りのタイミングの考え方

個人事業主が、法人成りをするタイミングは、次のような点を、総合して決めます。
| 考える点 | 内容 |
|---|---|
| 利益の水準 | 年間の利益が、安定して500万円から800万円を超えるか |
| 消費税 | 課税売上が、1,000万円を超える前に、法人成りをするか |
| 取引先からの信用 | 法人のほうが、取引や、融資、採用で、有利になる場面があるか |
| 社会保険料 | 法人にした場合の、社会保険料の負担を、受け入れられるか |
| 事業の見通し | 今後、利益が安定して続く見込みがあるか |
一度、法人にすると、個人事業に戻すのは、簡単ではありません。税金だけでなく、事業の将来像も含めて、判断しましょう。決算期の決め方も、重要です。売上が大きい時期を、決算月にすると、決算の準備が忙しくなるなど、運営に影響するため、設立のときに、慎重に決めておきましょう。
会社設立後に必要な、税金の届出

会社を設立したら、税金の対策を活かすためにも、期限までに、届出を行うことが重要です。主な届出は、次のとおりです。
- 法人設立届出書(設立から2か月以内)
- 青色申告の承認申請書(設立から3か月以内、または最初の事業年度の終了日のうち、早い日の前日まで)
- 給与支払事務所等の開設届出書(開設から1か月以内)
- 源泉所得税の納期の特例の承認申請書(必要な場合)
- 消費税に関する届出書(課税事業者の選択、簡易課税制度の選択など、必要な場合)
特に、青色申告の承認申請書は、期限を過ぎると、最初の事業年度には、承認を受けられません。赤字の繰り越しも使えなくなるため、注意してください。
会社設立の税金対策でよくある誤解

会社設立の税金対策については、次のような誤解がよく見られます。
- 法人にすれば、必ず税金が安くなる → 利益が少ない場合は、社会保険料や、各種の費用で、負担が増えることもあります。
- 家族に高額な給与を払えば、いくらでも節税できる → 働いた内容に見合わない部分は、経費にできません。
- 法人向けの保険で、税金がゼロになる → 保険は、課税の先送りです。解約のときに、課税されます。
- 消費税は、設立から必ず、2年間免除される → 特定期間の売上や、インボイスの登録などによって、免除されない場合があります。
- 節税のために、利益を出さないほうがよい → 利益がないと、融資や、取引先の信用で、不利になることがあります。
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※本記事は、2026年10月時点の情報をもとに作成しています。税制は改正されることがあります。実際の税額や、手続きについては、税理士などの専門家にご確認ください。




