税金は、売上や利益と同じように、経営の数字に大きな影響を与えます。法律で認められた制度を正しく使えば、税金の負担を抑えて手元の資金を増やし、事業への投資や将来の備えに回すことができます。
一方で、「節税になると聞いて買ったものが、実は経費にならなかった」「税務調査で否認されて追徴課税を受けた」というように、仕組みをよく理解しないまま進めた節税が失敗につながるケースも少なくありません。
この記事では、節税の基本的な考え方から、会社員・個人事業主・法人それぞれが実践できる節税対策、絵画などの美術品や節税商品の注意点、やってはいけない節税までを、2026年時点の制度に沿って分かりやすく解説します。
Contents
節税対策とは?正しく理解するための基本

節税・脱税・租税回避の違い
節税を考えるうえで、まず押さえておきたいのが「脱税」「租税回避」との違いです。
| 区分 | 内容 | 扱い |
|---|---|---|
| 節税 | 法律で認められた控除や特例を使って税負担を減らす | 正当な行為 |
| 租税回避 | 法律の想定していない不自然な取引で税負担を減らす | 否認されることがある |
| 脱税 | 売上を隠す、架空の経費を計上するなど、違法に税金を免れる | 重加算税や刑事罰の対象 |
節税は、法律が用意している制度を、その趣旨に沿って使うことが前提です。形だけ整えた取引や、事業と関係のない支出を経費にすることは節税にはなりません。
節税の3つの方向性
節税の方法は、大きく分けると次の3つです。
- 経費(損金)を正しく計上する:事業に必要な支出をもれなく経費にする
- 控除や特例を使う:所得控除、税額控除、特別償却などの制度を活用する
- 税金がかかる時期を調整する:利益の計上時期を繰り延べ、資金繰りを改善する
3つ目の「時期の調整」は、税金がなくなるのではなく、後で払うことになる「課税の繰延べ」である場合が多い点に注意が必要です。手元に資金を残す効果はありますが、将来の税負担まで含めて考えることが大切です。
会社員ができる節税対策

会社員の方は、給与から税金が天引きされるため節税の余地が少ないと思われがちですが、所得控除の制度を使うことで税負担を減らせます。
iDeCo(個人型確定拠出年金)
iDeCoは、自分で掛金を出して老後の資金を作る年金制度です。掛金の全額が所得控除になり、運用益も非課税、受け取るときも退職所得控除や公的年金等控除の対象になります。ただし、原則として60歳まで引き出せないため、無理のない掛金で始めましょう。
ふるさと納税
ふるさと納税は、応援したい自治体に寄附をすると、寄附額のうち2,000円を超える部分が、上限額の範囲内で所得税と住民税から控除される制度です。返礼品を受け取れるのも魅力です。上限額は年収や家族構成によって変わるため、事前に目安を確認しておきましょう。
医療費控除・住宅ローン控除
1年間に支払った医療費が一定額(原則10万円、所得が少ない場合は所得の5%)を超える場合は、医療費控除を受けられます。また、住宅ローンを組んで住宅を購入した場合は、住宅ローン控除によって所得税・住民税から直接税額を差し引けます。どちらも確定申告(住宅ローン控除は2年目以降、年末調整でも可)が必要です。
個人事業主ができる節税対策

青色申告特別控除を最大限使う
個人事業主の節税の基本は青色申告です。複式簿記で帳簿をつけて期限内に申告すると55万円、さらにe-Taxで申告するか、一定の電子帳簿保存を行うと65万円の青色申告特別控除を受けられます。赤字を3年間繰り越せる、家族への給与を経費にできるといったメリットもあります。
小規模企業共済と経営セーフティ共済
小規模企業共済は、個人事業主や小規模な会社の役員のための退職金制度で、月1,000円から7万円までの掛金の全額が所得控除になります。
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)は、取引先が倒産したときに貸付けを受けられる制度で、月5,000円から20万円まで、総額800万円までの掛金を経費(法人は損金)にできます。ただし、2024年(令和6年)10月以後に解約した場合、その後2年以内に再加入して支払った掛金は経費にできないルールができています。解約すると解約手当金は収入になるため、受け取る時期も含めて計画的に使いましょう。
少額の資産は一括で経費にする
青色申告をしている個人事業主や中小企業者は、少額の減価償却資産を取得した年に一括で経費にできる特例を使えます。令和8年度の税制改正で、2026年4月1日以後に取得した資産は、取得価額40万円未満(従来は30万円未満)まで対象となり、適用期限も2029年3月31日まで延長されました。年間の合計額は300万円までです。
法人・中小企業ができる節税対策

法人は、個人よりも使える制度の種類が多く、会社の規模や業種に合わせて組み合わせることで大きな効果が期待できます。代表的な方法を見ていきましょう。
役員報酬を適切に設定する
法人では、役員報酬を毎月同じ額で支払う「定期同額給与」にすれば、損金にできます。報酬額は原則として事業年度の開始から3か月以内に決める必要があるため、期首に年間の利益を見込んで、法人税と個人の所得税・社会保険料のバランスがよくなるように設定しましょう。賞与を役員に支払う場合は、事前に税務署へ届け出る「事前確定届出給与」の手続きが必要です。
福利厚生や旅費規程を整える
社宅制度を導入し、役員や従業員から一定額以上の家賃を受け取れば、会社が負担した家賃を損金にできます。また、旅費規程を作って出張手当(日当)を支給すれば、会社は損金にでき、受け取る側も所得税がかからないのが一般的です。いずれも、規程を整え、実態に合った金額にすることが前提です。
決算賞与や交際費の枠を活用する
決算期末までに従業員へ賞与の支給額を通知し、期末から1か月以内に支払うなどの要件を満たせば、その期の損金にできます。また、資本金1億円以下の中小法人は、年800万円までの交際費を損金にできます(1人あたり1万円以下の飲食費は、交際費から除いて全額を損金にできます)。
税額控除や特別償却の制度を使う
中小企業向けには、従業員の給与を一定以上増やした場合に法人税から控除できる「賃上げ促進税制」や、一定の設備投資について即時償却や税額控除を選べる「中小企業経営強化税制」などの制度があります。要件や手続きが細かく、事前の計画認定が必要な制度もあるため、設備投資や賃上げを予定しているときは早めに税理士に相談しましょう。
絵画・美術品を使った節税の注意点

100万円未満の美術品は減価償却できる
会社で絵画などの美術品を購入して事務所に飾る場合、税務上の扱いは取得価額によって変わります。2015年(平成27年)の通達改正により、1点100万円未満の美術品は、原則として減価償却資産として扱われるようになりました。耐用年数に応じて、数年に分けて経費にできます。
一方、1点100万円以上の美術品は、原則として時の経過によって価値が減らない「非減価償却資産」とされ、経費にできません(価値が減ることが明らかな場合を除く)。
事業との関係と保管の実態が大切
美術品を経費にするには、会社の事務所や店舗など、事業の場所に飾っていることが前提です。社長の自宅に飾っている場合や、倉庫にしまったままの場合は、事業用と認められないおそれがあります。また、節税だけを目的に高額な美術品を購入すると、手元の資金が減って経営を圧迫することもあります。売却するときには売却益に税金がかかる点も含めて、慎重に判断しましょう。
美術品を購入するときの確認ポイント
美術品を事業用に購入する場合は、次の点を確認しておきましょう。
- 1点ごとの取得価額(購入手数料などの付随費用を含めて判定する)
- 事務所や店舗の、来客や従業員の目に触れる場所に飾るかどうか
- 請求書や領収書、作品の説明書など、購入の記録を保存しているか
- 少額減価償却資産の特例など、ほかの制度との関係
取得価額が少額の美術品は、要件を満たせば少額減価償却資産の特例で一括して経費にできる場合もあります。どの方法が使えるかは会社の規模や取得価額によって変わるため、購入前に確認しておくと安心です。
節税商品・保険・リースの注意点

法人保険は「資産計上」のルールを確認する
法人で加入する生命保険は、保険の種類によって損金にできる割合が異なります。2019年(令和元年)の通達改正以降、解約したときの返戻率が高い定期保険などは、保険料の一部を資産として計上するルールになっています。「全額損金で節税できる」という説明をうのみにせず、契約前に税務上の扱いを確認しましょう。
オペレーティングリースや不動産投資
航空機などのオペレーティングリースや、法人名義での不動産投資は、初めのうちに大きな損金を計上できることから、節税策として紹介されることがあります。ただし、多くは課税の繰延べで、後で利益が出たときに税金がかかります。中途解約が難しい、元本が保証されないなどのリスクもあるため、事業計画とあわせて判断する必要があります。
やってはいけない節税と失敗しない進め方

否認されやすい節税の例
次のような処理は、税務調査で否認されやすく、追徴課税の原因になります。
- 事業と関係のない私的な支出を経費にする
- 家族に勤務の実態がないのに給与を支払う
- 自宅の家賃や光熱費を、根拠なく高い割合で経費にする
- 期末に使う予定のない消耗品を大量に購入して経費にする
- 架空の外注費や、実態のない取引を計上する
事実を隠したり偽ったりして申告した場合は、通常の加算税よりも重い重加算税(原則35%、無申告の場合は40%)がかかることもあります。
節税は資金繰りとセットで考える
節税のためにお金を使いすぎると、税金は減っても手元の資金が減ってしまいます。たとえば、利益が出たからといって不要な設備を買うと、税金を払うより多くの現金を失うことになります。「税金をいくら減らせるか」ではなく「手元にいくら資金が残るか」を基準に判断しましょう。
決算の3か月前から準備する
節税対策の多くは、決算日を過ぎるとその期には使えません。決算の3か月ほど前に試算表で利益の見込みを確認し、税理士と一緒に対策を検討すると、選べる方法が増えます。
節税対策でよくある質問

赤字の年にも節税対策は必要ですか
赤字の年は法人税や所得税がかからないため、経費を増やす節税策は効果がありません。むしろ、青色申告をして赤字を翌年以降に繰り越すことが大切です。法人は最長10年、個人事業主は3年間、赤字を将来の黒字と相殺できます。ただし、法人住民税の均等割は赤字でもかかります。赤字の年に高額な資産を買って特別償却をしても、その効果を十分に生かせないこともあるため、黒字の年に回すなど、時期を考えて判断しましょう。
個人事業主は法人化したほうが節税になりますか
所得が一定以上になると、個人の所得税・住民税よりも法人税等のほうが税率が低くなるため、法人化によって税負担を抑えられることがあります。役員報酬に給与所得控除を使える、退職金を損金にできるといったメリットもあります。一方で、社会保険料や均等割、税理士報酬などの負担も増えるため、税金と社会保険料の合計で比べて判断することが大切です。
節税対策は誰に相談すればよいですか
節税対策は、会社や家族の状況によって最適な方法が変わります。インターネットや営業担当者から聞いた方法をそのまま取り入れるのではなく、会社の数字を把握している顧問税理士に相談するのが安心です。特に、保険やリースなどの商品を使った節税は、販売する側の説明だけで判断せず、契約前に税務上の扱いを確認しましょう。
節税をしすぎると融資に影響しますか
節税で利益を小さくしすぎると、決算書の見栄えが悪くなり、金融機関からの評価が下がることがあります。将来、融資を受けて事業を広げたい場合は、税金を減らすことだけを考えず、ある程度の利益を出して自己資本を積み上げることも大切です。
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