事業が成長してくると、作業場や工房、倉庫などの用地を自社で取得したいと考える経営者の方が増えてきます。賃貸よりも自由に使えるうえ、将来の資産にもなるためです。一方で、土地や建物の購入には大きな資金が必要になり、決済日に向けた資金繰りや融資の準備を誤ると、事業の運転資金が足りなくなるおそれがあります。
また、利益が出ている会社では、同じ時期に法人税の負担をどう抑えるかも気になるところです。ただし、節税のために支出を増やしすぎると、手元の資金が減り、融資の審査にも影響することがあります。
この記事では、事業用の土地・建物を取得するときの資金繰りの考え方、検討したい融資の種類、取得にかかる費用の税務上の扱い、利益が出ている年の節税対策の注意点を解説します。
Contents
事業用の土地・建物を取得するときの資金繰りの考え方

不動産の購入では、売買代金のほかに、仲介手数料や登記費用、固定資産税の精算金などの諸経費がかかります。決済日にはこれらをまとめて支払う必要があるため、決済日から逆算して資金を準備することが大切です。
資金繰り表で決済日までの資金を確認する
まずは、月ごとの入金と出金の予定をまとめた資金繰り表を作り、決済日の時点で手元の資金がいくらになるかを確認しましょう。売上の入金予定、仕入れや給与の支払い、借入金の返済、納税の予定などを書き出すと、資金が不足する時期が見えてきます。
資金の過不足を確認する仮の例
次の数字は説明のための仮の例です。毎月の運転資金(仕入れ・給与・家賃などの支払い)が約400万円の会社が、売買代金3,000万円の土地・建物を購入するとします。諸費用を約200万円と見込むと、決済日に必要な資金は約3,200万円です。
現在の預金残高が2,500万円の場合、自己資金で800万円を支払い、残りの2,400万円を融資でまかなうと、決済後の預金は1,700万円になります。これは運転資金の約4か月分にあたります。一方、自己資金を2,000万円に増やすと決済後の預金は500万円となり、運転資金の1か月分ほどしか残りません。さらに、決算後の納税や賞与の支払いが重なる時期には、残高がもっと少なくなります。このように、決済後の預金残高が運転資金の何か月分になるかを基準にすると、自己資金と融資の割合を決めやすくなります。
決済後も手元に資金を残す
土地の購入に手元の資金をすべて使ってしまうと、売上の入金が遅れたときや、急な支出があったときに対応できなくなります。決済の後も、数か月分の運転資金を手元に残すことを目安に、自己資金と融資の割合を決めておきましょう。年末や決算期など、資金が出ていきやすい時期の残高の目標を決めておくのも有効です。
賃貸中の物件を取得する場合
購入する物件に入居者がいる場合は、退去するまでの間、家賃収入を得られることがあります。一方で、自社で使い始める時期が遅れることや、退去に向けた話し合いが必要になることもあります。賃貸借契約の内容を確認し、いつから事業に使えるのかを見込んだうえで計画を立てましょう。また、入居者から預かっている敷金は、決済のときに売主から引き継ぐ形で精算することが一般的です。将来、入居者に返す義務があるお金なので、資金繰り表では自由に使える資金と分けて管理しておきましょう。
土地取得で検討したい融資の種類

事業用の土地・建物の取得には、いくつかの融資の方法があります。主なものは次のとおりです。
| 融資の種類 | 主な特徴 |
|---|---|
| マル経融資(小規模事業者経営改善資金) | 商工会・商工会議所の推薦を受けて日本政策金融公庫が行う融資。限度額は2,000万円で、担保・保証人が不要 |
| 制度融資 | 自治体、金融機関、信用保証協会が連携して行う融資。自治体によっては利子や保証料の補助がある |
| 金融機関の不動産向けの融資 | 購入する土地・建物の価値や収益力を評価して行う融資。不動産を担保にすることが多い |
マル経融資
マル経融資は、商工会・商工会議所の経営指導を受けている小規模事業者が利用できる融資です。原則として6か月以上の経営指導を受けていることなどの要件があり、商工会・商工会議所の推薦を受けて日本政策金融公庫が融資を行います。担保・保証人が不要で、信用保証協会の保証も不要です。ただし、従業員数や事業を営んでいる期間などの要件があり、限度額も2,000万円のため、土地の購入代金のすべてをまかなうのは難しい場合があります。資金の使い道や返済期間にも決まりがあるため、利用を考えている場合は、土地の取得に充てられるかどうかも含めて、早めに地域の商工会・商工会議所に相談しておきましょう。
制度融資
制度融資は、自治体が金融機関や信用保証協会と連携して行う融資です。信用保証協会の保証がつくため、創業間もない会社や規模の小さい会社でも利用しやすいのが特徴です。自治体によって、利子の一部を補助する制度や、信用保証料の補助を受けられる場合があります。一方で、自治体での手続き、信用保証協会の審査、金融機関の審査と段階を踏むため、申込みから融資の実行までに時間がかかることがあります。決済日に間に合うよう、余裕を持って申し込みましょう。
金融機関との関係づくり
土地の取得では金額が大きくなるため、日頃から取引のある金融機関に早めに相談することが大切です。メインバンクを決めて、売上の入金や支払いをその口座に集めておくと、金融機関が会社の状況を把握しやすくなります。決算書や試算表、購入する物件の資料を用意して、購入の目的と事業への効果を具体的に説明できるようにしておきましょう。
土地・建物の取得にかかる費用の税務上の扱い

不動産を取得したときの費用は、税務上の扱いがそれぞれ異なります。経費になる時期が変わるため、資金計画とあわせて確認しておきましょう。
土地は減価償却できない
建物は、使用できる期間に応じて毎年少しずつ経費にする減価償却の対象になります。一方、土地は時間がたっても価値が減らないと考えられているため、減価償却ができません。土地の購入代金は、購入した年の経費にはならない点に注意が必要です。土地と建物をまとめて購入する場合は、売買代金のうち建物の金額がいくらかを契約書などで明らかにしておくことが大切です。
取得にかかった諸経費の扱い
仲介手数料は、土地や建物の取得価額に含めます。また、決済のときに売主へ支払う固定資産税の精算金は、税金という名前がついていても、税務上は売買代金の一部として取得価額に含めるのが原則です。経費として処理しないよう注意しましょう。一方、法人の場合、登録免許税や不動産取得税などの税金は、取得価額に含めずにその年の経費にすることも認められています。どちらで処理するかによって、その年の利益が変わるため、決算の前に税理士と確認しておきましょう。なお、不動産取得税は取得してから数か月後に納税通知書が届くため、その支払いも資金繰りに入れておく必要があります。
利益が出ている年の節税対策の注意点

土地の取得と同じ年に利益が大きく出る見込みの場合は、法人税の負担を抑える方法も検討したくなります。主な方法と注意点は次のとおりです。
少額減価償却資産の特例
中小企業者等が取得価額40万円未満の減価償却資産を取得した場合は、その取得価額を全額その年の経費にできる特例があります。2026年度(令和8年度)の税制改正で、2026年4月1日以後に取得したものから、それまでの30万円未満から40万円未満に引き上げられました。年間の合計は300万円が上限で、青色申告をしていることや、常時使用する従業員が400人以下であることなどの要件があります。この特例の適用期限は、2029年3月31日までに取得したものとされています。パソコンなど、事業に必要な設備を購入する予定がある場合は、この特例を使えるか確認しておきましょう。
寄附金の扱い
法人が支出した寄附金は、寄附先によって経費にできる金額が変わります。国や地方公共団体への寄附金や、財務大臣が指定した寄附金(指定寄附金)は全額を経費にできます。たとえば、国立大学法人の業務に充てられる寄附金は、指定寄附金にあたります。一方、一般の寄附金は、資本金や所得の金額から計算した上限までしか経費にできません。寄附をする場合は、寄附先から受け取る領収書の記載内容を確認し、申告の際に必要な書類を保管しておきましょう。
節税と手元資金のバランスを考える
節税のための支出は、税金が減る以上に手元の資金を減らします。次の数字は説明のための仮の例です。法人税などの税率を合計で約30%とすると、100万円を支出して減る税金は約30万円で、手元の資金は差し引き約70万円減ることになります。本当に事業に必要な支出かどうかを基準に判断することが大切です。また、利益を大きく減らすと、融資の審査で会社の返済能力が低く見られることもあります。土地の取得のために融資を受ける予定がある場合は、節税と融資の両方の視点から決算の数字を考えましょう。
土地・建物の取得から決済までの流れとかかる費用

事業用の土地・建物を取得するときは、物件探しから決済までに数か月かかるのが一般的です。融資の審査にも時間がかかるため、全体の流れを把握して、早めに準備を始めましょう。
取得までの主な流れ
| 段階 | 主な内容と注意点 |
|---|---|
| 1.資金計画の作成 | 資金繰り表を作り、自己資金でまかなえる金額と、融資が必要な金額を把握する |
| 2.物件の選定と調査 | 用途地域や建築の制限など、予定している事業に使えるかを確認する |
| 3.金融機関への相談 | 物件の資料と決算書・試算表を用意し、融資の可否と条件を確認する |
| 4.売買契約 | 手付金を支払う。融資が受けられなかった場合に契約を解除できる特約(融資特約)があるかを確認する |
| 5.融資の実行と決済 | 残代金と諸費用を支払い、所有権移転の登記を行う |
| 6.取得後の納税 | 数か月後に不動産取得税の納税通知書が届き、翌年からは毎年固定資産税がかかる |
売買契約の時点で手付金が必要になる一方、融資が実行されるのは決済のときになるのが一般的です。手付金は自己資金から先に支払うことが多いため、その分の資金も資金繰り表に入れておきましょう。
売買代金以外にかかる主な費用
土地・建物の取得では、売買代金のほかに次のような費用がかかります。
- 仲介手数料(不動産会社を通して購入する場合)
- 登録免許税と、司法書士への登記手続きの報酬
- 不動産取得税(取得後に都道府県から納税通知書が届く)
- 固定資産税・都市計画税の精算金
- 融資を受ける場合の事務手数料、金銭消費貸借契約書の印紙税、抵当権設定の登記費用
- 売買契約書に貼る印紙税
これらの費用は物件の価格や評価額によって変わるため、仲介する不動産会社や金融機関に見積もりを出してもらい、早めに金額を把握しておきましょう。
建物の消費税と土地の消費税の違い
土地の売買には消費税がかかりませんが、売主が事業者の場合、建物の売買には消費税がかかります。会社が消費税の課税事業者で、原則課税で申告している場合は、建物にかかった消費税を、納める消費税から差し引ける(仕入税額控除)ことがあります。一方、簡易課税制度を選んでいる場合や免税事業者の場合は差し引けません。土地と建物の代金の区分は、法人税だけでなく消費税にも影響するため、契約書で明確にしておくことが大切です。
取得後に毎年かかる費用も見込んでおく
不動産は、取得した後も費用がかかります。毎年の固定資産税・都市計画税のほか、建物の火災保険料や修繕費、融資の返済と利息の支払いが続きます。融資の返済額のうち、元本の部分は経費になりませんが、利息は経費になります。経費にならない元本の返済は、税引き後の利益や減価償却費の範囲でまかなうのが基本です。返済の計画を立てるときは、毎年の利益と減価償却費の合計で元本の返済ができるかを確認しておきましょう。
事業拡大に向けて準備しておきたいこと

用地の取得をきっかけに、新しい製造事業を始めたり、人を増やしたりする計画がある場合は、次の点も準備しておくと安心です。
- 10万円以上の設備の購入予定は、事前に税理士に共有して、経費の扱いを確認する
- 役員の自宅の一部を会社の作業場として使う場合は、会社と役員の間で賃貸借契約を結び、適正な家賃を決めておく
- 補助金を活用する場合は、申請の時期と、補助金が支払われるまでの資金を確保しておく(補助金は原則として会社の収益になり、法人税の対象になる点にも注意する)
- 決算書や試算表を毎月そろえ、金融機関にいつでも説明できるようにしておく
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※本記事は、2026年10月時点の法令や制度をもとに作成しています。融資の条件や利率は時期や地域によって異なるため、最新の内容は各機関にご確認ください。




