「事業承継は、いつから、準備を始めればよいのか」という質問は、経営者の方から、多く寄せられます。「まだ、元気で、現役だから、早いのではないか」「後継者が決まってから、考えればよいのではないか」と、先送りにされがちですが、事業承継は、思っている以上に、時間がかかる取り組みです。
結論からいうと、中小企業庁の資料では、事業承継の準備には、5年から10年程度かかるとされており、経営者の平均引退年齢が、70歳前後であることを踏まえて、60歳頃には、準備に着手することが、望ましいとされています。
この記事では、中小企業庁の「事業承継ガイドライン」などをもとに、事業承継の準備を始める時期の目安、準備にかかる期間、承継の方法の種類、準備の進め方、使える支援制度を、解説します。
なお、制度や数字は、改定されることがあります。この記事は、2026年10月時点の公表資料をもとにしています。実際の判断では、最新の資料を確認し、専門家にご相談ください。
Contents
事業承継の準備を始める、時期の目安

準備にかかる期間:5年から10年程度
中小企業庁の事業承継ガイドラインでは、後継者の育成の期間も含めると、事業承継の準備には、5年から10年程度を要すると、説明されています。後継者候補を選び、経営に必要な能力を身につけてもらい、会社の知的資産(技術、ノウハウ、取引先との関係など)を、受け継いでいくには、それだけの時間が、必要という考え方です。
始める時期:60歳頃が、目安
同じ資料では、経営者の平均引退年齢が、70歳前後であることを踏まえると、60歳頃には、事業承継に向けた準備に、着手することが、必要(または、望ましい)とされています。なお、引退の年齢は、規模や業種によって異なり、資料によっては、平均67歳から70歳などと、紹介されています。年齢は、あくまで目安で、会社の状況や、経営者の健康状態によって、早めの準備が、必要な場合もあります。
後継者の決定から、承継の完了まで
中小企業庁の資料では、後継者を決めてから、事業承継が完了するまでに、3年以上かかる割合が、半数を超え、10年以上かかる割合も、少なくないとされています。後継者が決まってから、準備を始めるのでは、遅いといえます。
なぜ、早く始める必要があるのか

理由1:後継者の育成に、時間がかかる
後継者には、経営の知識、業界の知識、社内外の人脈、会社の理念などを、身につけてもらう必要があります。これらは、短期間では、身につきません。
理由2:会社の課題を、解決する時間が必要
事業承継の前に、会社の課題(財務の状況、事業の収益力、経営者への依存、簿外債務など)を、整理して、改善しておくと、後継者が、引き継ぎやすくなり、会社の評価も、高まります。
理由3:選択肢を、広げられる
早く準備を始めれば、親族内承継、従業員への承継、社外への引継ぎ(M&A)など、複数の選択肢を、比較して、選べます。準備が遅れると、選択肢が、限られてしまいます。
理由4:税制や、支援制度を、活用できる
事業承継には、税制や、補助金などの、支援制度があります。たとえば、国税庁によると、法人版事業承継税制の特例措置は、特例承継計画の提出が、令和9年9月30日まで、相続や贈与の実施が、令和9年12月31日までと、期限が決まっています。期限のある制度を、使うには、早めの準備が欠かせません。
理由5:経営者の、健康や、万一への備え
経営者に、病気や、事故が、あった場合に、準備ができていないと、会社の経営が、止まるおそれがあります。早めの準備は、万一への備えにもなります。
事業承継の、3つの類型

事業承継は、誰に引き継ぐかによって、大きく3つに、分けられます。
| 類型 | 内容 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 親族内承継 | 子どもや、親族に、引き継ぐ | 関係者の理解を、得やすい。後継者の資質や、意思の確認が必要 |
| 役員・従業員承継 | 社内の、役員や、従業員に、引き継ぐ | 会社を、よく知る人に、引き継げる。株式の取得資金や、個人保証が、課題になりやすい |
| 社外への引継ぎ(M&A) | 外部の会社や、個人に、引き継ぐ | 後継者が、いない場合の選択肢。相手探しや、条件の交渉に、時間がかかる |
中小企業庁の資料では、近年、親族内承継の割合が、減少し、親族以外への承継の割合が、増えている傾向が、示されています。後継者の選択肢を、親族に限らず、広く、考えることが、大切です。
準備の進め方:5つのステップ

事業承継の準備は、次のようなステップで、進めると、整理しやすくなります。
ステップ1:現状を、把握する(見える化)
会社の財務の状況、事業の強みと課題、経営者個人の資産と負債、経営者の保証の状況、株主の構成などを、整理します。経営者が、いなくなっても、事業が回るかも、確認します。
ステップ2:承継の方針を、決める
誰に、どのような形で、引き継ぐのかを、検討します。親族内、従業員、社外への引継ぎを、比較して、方針を決めます。
ステップ3:会社を、磨き上げる
引き継ぎやすい、会社にするために、経営の改善を行います。決算書の整理、収益力の強化、経営者への依存の軽減、組織の整備、契約や、許認可の整理などです。
ステップ4:事業承継計画を、作成する
承継の時期、後継者への、経営の移譲の方法、株式や資産の、移転の方法、税金や、資金の計画などを、まとめた、計画を作ります。中小企業庁のガイドラインでは、計画は、10年後を見据えて、作ることが、基本とされています。
ステップ5:実行と、承継後の統合
計画に沿って、経営の移譲、株式の承継を、実行します。承継のあとも、後継者を、支え、関係者との関係を、整えていきます。
準備のチェックリスト

事業承継の準備が、どこまで進んでいるかを、確認するための、チェックリストです。
- 後継者の候補は、いるか(いない場合の、選択肢を、検討しているか)
- 後継者候補に、承継の意思を、確認しているか
- 会社の財務の状況を、把握し、課題を、整理しているか
- 経営者個人の保証や、会社との貸借関係を、把握しているか
- 株式の、分散の状況を、確認しているか(親族や、従業員、第三者の株主)
- 承継に伴う、税金(贈与税、相続税、譲渡所得税)を、試算しているか
- 家族や、関係者に、承継の方針を、伝えているか
- 承継の計画を、書面にまとめているか
準備のスケジュール例(想定)

60歳頃に準備を始め、70歳前後で、承継を完了するという、想定のスケジュール例を、紹介します。実際のスケジュールは、会社の状況によって、異なります。
| 時期の目安 | 主な取り組み |
|---|---|
| 承継の約10年前(60歳頃) | 情報収集、現状の把握(見える化)、家族との話し合い、専門家への相談 |
| 承継の約7年前 | 承継の方針の決定(親族内、従業員、社外)、後継者候補の選定、会社の磨き上げの開始 |
| 承継の約5年前 | 事業承継計画の作成、後継者の育成(役員への登用、重要な業務の担当) |
| 承継の約3年前 | 株式の承継の準備、税金の試算、金融機関との調整(個人保証の扱いなど)、事業承継税制などの活用の検討 |
| 承継の時期 | 代表者の交代、株式の移転、取引先や従業員への説明 |
| 承継後 | 後継者の支援、引き継ぎ、関係者との関係の整備 |
このスケジュールは、一つの目安です。事業承継税制のように、期限がある制度を使う場合は、期限から逆算して、計画を立てる必要があります。
準備が遅れた場合に、起こりやすいこと

準備が遅れると、次のような問題が、起こりやすくなります。
- 後継者の育成が、間に合わず、承継後の経営が、不安定になる
- 会社の課題を、解決する時間がなく、会社の評価が、低くなる
- 承継の選択肢が、限られ、希望しない形での、承継や、廃業を、選ばざるを得なくなる
- 期限のある、税制や、補助金を、活用できなくなる
- 経営者の、病気や、事故などで、突然、経営が、止まる
こうしたリスクを、避けるために、元気なうちから、少しずつ、準備を、進めておくことが、大切です。
まず、今日から、できること

事業承継の準備は、大きな取り組みですが、今日から、始められることも、あります。
- 会社の、決算書や、借入の状況を、確認する
- 自分が、いつ頃、引退したいかを、考えて、紙に、書いてみる
- 後継者の候補(親族、従業員、外部)を、思い浮かべる
- 顧問の税理士や、金融機関の担当者に、事業承継について、相談してみる
- 事業承継・引継ぎ支援センターなどの、公的な相談窓口の情報を、調べる
小さな一歩を、踏み出すことが、事業承継を、先送りにしない、第一歩です。
後継者に伝えておきたいこと

後継者に、経営を引き継ぐときは、会社の数字や、手続きだけでなく、次のようなことも、伝えておくことが、大切です。
- 会社の理念や、大切にしてきた価値観
- 主要な取引先や、金融機関との関係、これまでの経緯
- 事業の強みと、課題、経営者として、判断してきた考え方
- 従業員の特徴や、各人の役割、信頼関係
- 経営者個人の、保証や、会社との貸借の状況
これらは、文書にまとめにくい内容ですが、後継者が、経営を円滑に進めるうえで、欠かせない、知的資産です。承継の期間中に、日常の経営を通じて、少しずつ、伝えていくことが、大切です。
家族や関係者との、話し合いの進め方

事業承継は、経営者一人で、決められることではありません。家族、後継者、役員、従業員、金融機関などの、関係者との、話し合いが、欠かせません。話し合いの進め方のポイントを、紹介します。
- まず、家族の間で、経営者の考えや、会社の状況を、共有する
- 後継者の候補とは、承継の意思や、不安に思っていることを、率直に、話し合う
- 相続の問題(財産の分け方、株式の分散)は、事業承継と、あわせて、考える
- 第三者(税理士、支援機関)に、同席してもらい、客観的な意見を、聞く
- 話し合いの内容を、記録に残し、合意した内容を、書面にまとめる
感情的な対立が、起こりやすい場面でもあるため、早めに、時間をかけて、話し合うことが、大切です。
使える支援制度や、相談先

事業承継には、次のような、支援制度や、相談先があります。
- 法人版事業承継税制(特例措置):非上場株式の、贈与税や相続税の、納税が猶予される制度(国税庁の資料による。期限があるため、確認が必要)
- 事業承継・M&A補助金:事業承継促進枠、専門家活用枠、PMI推進枠、廃業・再チャレンジ枠がある(中小企業庁の資料による)
- 事業承継・引継ぎ支援センター:公的な相談窓口。後継者の探索や、M&Aの相談ができる(中小M&Aガイドラインでも、セカンド・オピニオンを提供する機関として、位置づけられている)
- 税理士、公認会計士、弁護士などの専門家:税金、株式の評価、契約、法的なリスクの、相談ができる
- 商工会議所、商工会、金融機関:事業承継の相談窓口を、設けている場合がある
詳しい制度の内容は、別の記事「事業承継税制とは?特例措置の要件・メリット・期限を解説」や、「事業承継・M&A補助金とは?4つの枠と補助上限・補助率を解説」で、解説しています。
事業承継を、先送りにしないために

事業承継が、先送りされやすい、背景には、次のような理由があります。
- 経営者自身が、元気で、引退を、具体的に、考えていない
- 後継者に、話を切り出しにくい(親子の間でも、話しにくい)
- 何から、始めればよいか、分からない
- 日々の経営に、追われ、時間がない
先送りしないためには、「いつまでに、何をするか」を、書面に、まとめて、見える形にすることが、有効です。また、第三者(税理士、金融機関、支援機関)を、巻き込むことで、話し合いが、進みやすくなります。
事業承継の準備に関する、よくある質問

Q1. 50代でも、準備を、始めるのは、早すぎますか?
早すぎることは、ありません。準備には、5年から10年かかるため、50代から、情報を集め、会社の磨き上げを、始めることは、有効です。
Q2. 後継者が、決まっていなくても、準備できますか?
できます。会社の現状の把握や、課題の整理、財務の整備は、後継者が決まっていなくても、進められます。後継者がいない場合は、社外への引継ぎ(M&A)の、可能性も、早めに、検討できます。
Q3. 何から、始めればよいですか?
まず、会社と、経営者個人の、財務の状況を、整理して、「見える化」することが、第一歩です。そのうえで、税理士や、事業承継・引継ぎ支援センターなどに、相談して、方向性を、決めます。
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※本記事は、2026年10月時点の情報をもとに作成しています。制度や数字は変更されることがあるため、手続きの前に、中小企業庁、国税庁などの公式情報をご確認ください。




