会社を退職するときは、退職金の税金、その年の確定申告、退職後の住民税や健康保険など、確認しておくべきことが一度にやってきます。さらに、退職後に失業手当(雇用保険の基本手当)を受けながら株式の売買を続けてもよいのか、不安に感じる方もいらっしゃいます。
特に、退職金を受け取るときに会社へ提出する書類を出し忘れると、本来より多くの税金が差し引かれてしまいます。退職時の確定申告が必要かどうかも、給与以外の収入の有無によって変わります。
この記事では、退職前に準備しておきたい書類、退職した年の確定申告が必要になるケース、株式の売買益の申告方法、失業手当を受けている間の株式の売買の注意点、退職後の健康保険の選び方を解説します。
Contents
退職前に準備しておきたいこと

退職が決まったら、会社に提出する書類や、退職後の税金の納め方を確認しておきましょう。
退職所得の受給に関する申告書を提出する
退職金を受け取るときは、会社に「退職所得の受給に関する申告書」を提出します。この申告書を提出すると、勤続年数に応じた退職所得控除が差し引かれ、退職金にかかる税金が軽くなります。退職所得控除は、勤続20年以下の場合は40万円×勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)、20年を超える場合は800万円+70万円×(勤続年数-20年)です。勤続年数に1年未満の端数がある場合は、1年に切り上げて計算します。
退職所得の金額は、原則として退職金から退職所得控除を差し引き、その残りの2分の1になります。ただし、勤続5年以下の役員等の退職金などは、2分の1にする計算が適用されない、または一部に限られる場合があります。
次の数字は説明のための仮の例です。勤続30年で退職金を2,000万円受け取る場合、退職所得控除は800万円+70万円×10年=1,500万円です。退職所得の金額は(2,000万円-1,500万円)×2分の1=250万円となり、この250万円に対して所得税がかかります。退職所得は給与などとは分けて計算されるため、ほかの所得と合算されることはありません。
申告書を提出しないと、退職金の全額に20.42%の税率で所得税と復興特別所得税が源泉徴収されます。この場合でも、確定申告をすれば正しい税額との差額を精算できますが、手間がかかるため、退職前に必ず提出しておきましょう。
住民税の納め方を確認する
会社員の住民税は、通常は給与から差し引かれています。退職すると給与から差し引けなくなるため、残りの住民税を最後の給与や退職金からまとめて差し引くか、退職後に自分で納めるかを決める必要があります。1月1日から4月30日までに退職する場合は、原則として最後の給与や退職金から残りの住民税がまとめて差し引かれます。6月1日から12月31日までに退職する場合は、本人が希望すればまとめて差し引いてもらうことができ、希望しなければ、後日市区町村から届く納付書で自分で納めます。なお、退職金にかかる住民税は、ほかの所得とは分けて計算され、退職金を受け取るときに差し引かれるのが一般的です。
持株会や株式報酬の扱いを確認する
会社の持株会に加入している場合や、ストックオプションなどの株式報酬を受けている場合は、退職によって扱いが変わることがあります。持株会は、退職すると原則として退会することになり、積み立てた株式は自分の証券口座に移すか、売却して現金で受け取ることが一般的です。ストックオプションは、税制上の要件を満たすもの(税制適格)でなければ、権利を行使した時点で給与所得などとして課税されることがあります。売却の予定がある場合は、時期と金額を把握しておくと、確定申告の準備がしやすくなります。
退職した年に確定申告が必要になるケース

年末に退職する場合など、会社で年末調整を受けられる場合は、給与については会社で精算が終わります。ただし、次のような場合は、確定申告が必要になったり、申告をしたほうが有利になったりします。
| ケース | 確定申告の扱い |
|---|---|
| 年の途中で退職し、年末調整を受けていない | 確定申告をすると、払いすぎた税金が戻ることが多い |
| 株式を一般口座で売却して利益が出た | 確定申告が必要 |
| 特定口座の「源泉徴収なし」で売却して利益が出た | 原則として確定申告が必要 |
| 副業の収入や貸株料などの収入がある | 金額や状況によって確定申告が必要 |
| 医療費控除を受けたい | 確定申告が必要(年末調整では受けられない) |
確定申告をするときは収入をすべて含める
給与所得者には、給与以外の所得が20万円以下であれば確定申告が不要になる特例があります。ただし、医療費控除などのために確定申告をする場合は、20万円以下の副業の収入なども含めて申告する必要があります。また、ふるさと納税でワンストップ特例を利用していても、確定申告をすると特例は使えなくなるため、寄付した分も確定申告に含めることを忘れないようにしましょう。
株式の売買益と確定申告

株式の売買で利益が出た場合の申告方法は、利用している口座の種類によって変わります。
特定口座と一般口座の違い
証券会社の特定口座で「源泉徴収あり」を選んでいる場合は、証券会社が税金を差し引いて納めるため、確定申告をしなくても済みます。一方、一般口座での取引は、自分で損益を計算して確定申告をする必要があります。一般口座の取引がある場合は、証券会社から届く取引報告書をもとに、取得費と売却額を整理しておきましょう。
申告するかどうかで住民税や保険料に影響することがある
特定口座(源泉徴収あり)の利益は、確定申告に含めることもできます。複数の口座の損益を通算したり、損失を翌年以後に繰り越したりするには、確定申告が必要です。ただし、株式の利益を確定申告に含めると、その分は国民健康保険料などの計算の基になる所得に含まれることがあります。退職後に国民健康保険に加入する予定がある場合は、申告するかどうかを慎重に検討しましょう。
損失が出た場合の繰越控除
株式の売買で損失が出た年は、確定申告をすることで、その損失を翌年以後3年間にわたって繰り越し、将来の株式の利益と相殺することができます。繰越しを続けるには、損失が出た年だけでなく、その後も毎年確定申告をする必要があります。
次の数字は説明のための仮の例です。退職した年に、A証券の特定口座で30万円の利益、B証券の特定口座で50万円の損失が出たとします。それぞれの口座では利益と損失が別々に扱われるため、A証券の利益30万円からは税金が差し引かれています。確定申告で2つの口座の損益を通算すると、全体では20万円の損失となり、A証券で差し引かれた税金が戻ります。残りの20万円の損失は、翌年以後に繰り越すことができます。
NISA口座の取引は申告の対象外
NISA口座で得た売却益や配当は非課税のため、確定申告をする必要はありません。その一方で、NISA口座で出た損失は、ほかの口座の利益と通算したり、翌年以後に繰り越したりすることはできません。退職を機に資産の運用を見直す場合は、口座ごとの税金の扱いの違いも確認しておきましょう。
失業手当を受けている間の株式の売買の注意点

雇用保険の基本手当(失業手当)は、働く意思と能力があり、求職活動をしている方が受け取れる給付です。受給中は、就職や自営の状況をハローワークに申告する必要があります。失業手当を受け取れる期間は、原則として離職の日の翌日から1年間です。この期間を過ぎると、給付日数が残っていても受け取れなくなるため、退職後は早めにハローワークで手続きをしましょう。
株式の売買そのものは、一般に就職とはみなされない
株式の売買は、給与を得る仕事や事業とは異なるため、一般には就職や自営とはみなされないとされています。ただし、取引の規模や内容、本人の状況によっては、判断が分かれることもあります。求職の申込みをして求職活動を続けることが受給の前提であり、株式の売買で生計を立てるつもりで求職活動をしていないと判断されると、受給の対象外になるおそれがあります。不安な場合は、事前にハローワークに確認しておきましょう。
失業手当は税金がかからない
雇用保険の基本手当は非課税のため、確定申告で所得に含める必要はありません。一方、受給中に株式の売買で得た利益や、アルバイトなどの収入は、通常どおり課税の対象になります。
退職後の健康保険の選び方

退職後の健康保険は、主に次の3つから選びます。保険料や加入できる条件が異なるため、比較して選びましょう。
- 会社の健康保険の任意継続:退職の日までに継続して2か月以上加入していた方が、退職後20日以内に申し込むと、最長2年間加入できます。
- 国民健康保険:住んでいる市区町村で加入します。保険料は前の年の所得などをもとに計算されます。倒産や解雇など会社の都合で離職した方などは、申請により保険料が軽減される制度があります。
- 家族の健康保険の扶養:収入の見込みが一定の基準(原則として年収130万円未満など)より少ない場合に加入できます。失業手当も収入に含めて判定されることがあります。
家族の扶養に入れるかどうかの判定で、株式の売買益をどう扱うかは、加入する健康保険によって異なることがあります。株式の取引が多い場合は、家族が加入している健康保険の窓口に確認しておきましょう。健康保険や年金の手続きについては、社会保険労務士に相談することもできます。
任意継続と国民健康保険を比べるときのポイント
任意継続では、在職中は会社が半分を負担していた保険料を、全額自分で負担することになります。ただし、保険料の計算の基になる金額には上限があるため、在職中の給与が高かった方は、国民健康保険より保険料が低くなることもあります。一方、国民健康保険の保険料は前の年の所得をもとに計算されるため、退職した翌年は保険料が下がることがあります。それぞれの保険料を加入先の窓口で確認し、2年間の合計で比べて選ぶとよいでしょう。
退職した年の確定申告の進め方

年の途中で退職し、その年のうちに再就職しなかった場合は、確定申告で税金を精算するのが一般的です。主な流れは次のとおりです。
| 手順 | 主な内容 |
|---|---|
| 1.書類を集める | 退職した会社の源泉徴収票、国民年金や国民健康保険の保険料の領収書、生命保険料の控除証明書などを集める |
| 2.株式の取引を整理する | 証券会社の年間取引報告書を取り寄せ、申告に含めるかどうかを決める |
| 3.申告書を作る | 国税庁の確定申告書等作成コーナーや会計ソフトで、収入と控除を入力する |
| 4.提出する | e-Taxで送信するか、税務署に郵送・持参する |
税金が戻るだけの還付申告は、翌年の1月1日から5年間提出することができ、通常の確定申告の期間(2月16日から3月15日まで)に限られません。一方、株式の売却益などで税金を納める必要がある場合は、3月15日(土日祝日の場合は翌営業日)までに申告と納税を済ませる必要があります。
退職後に支払った国民年金や国民健康保険の保険料は、社会保険料控除の対象になります。退職後に自分で支払った保険料の領収書を保管しておくことで、控除の漏れを防げます。
年内に再就職した場合
退職した年のうちに再就職した場合は、前の会社の源泉徴収票を新しい会社に提出すれば、前の会社の給与も含めて新しい会社で年末調整を受けられます。源泉徴収票を提出しないと年末調整で正しく精算できないため、退職時に受け取った源泉徴収票はなくさないように保管しておきましょう。
失業手当と扶養の判定の違い
失業手当は非課税のため、税金の扶養(配偶者控除や扶養控除)を判定するときの所得には含まれません。一方、健康保険の扶養を判定するときは、失業手当も収入として扱われることがあります。同じ「扶養」という言葉でも、税金と健康保険では基準が異なるため、それぞれ確認するようにしましょう。
退職時の確定申告でよくある誤解

退職時の税金については、次のような誤解がよく見られます。
- 確定申告は3月15日までにしか提出できない → 税金が戻るだけの還付申告は、翌年1月1日から5年間提出できます。
- 退職金は必ず確定申告が必要 → 退職所得の受給に関する申告書を提出していれば、通常は確定申告は不要です。
- 失業手当も確定申告に含める → 雇用保険の基本手当は非課税のため、所得には含めません。
- 特定口座の利益は申告したほうが得 → 損益通算などで有利になる場合もありますが、保険料などに影響することがあるため、試算してから判断しましょう。
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※本記事は、2026年10月時点の法令をもとに作成しています。雇用保険や健康保険の取扱いは、ハローワークや加入する保険者にご確認ください。




