中小企業のオーナー経営者にとって、事業承継は避けて通れない経営課題です。特に非上場株式の評価や贈与、法人が保有する土地・建物の相続や分割は、税務と法務の両面で複雑な判断が求められます。加えて、承継のタイミングで就業規則や退職金規程の見直しが後回しになるケースも少なくありません。本コラムでは、非上場株式の評価と贈与の考え方、法人保有不動産の相続・分割における実務上の留意点、そして事業承継にあわせた社内規程整備の進め方について、実務家の視点から整理します。
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非上場株式の評価と贈与、不動産相続をめぐる悩みの背景

オーナー企業では、創業からの年月が長いほど、株式や不動産の含み益が大きくなる傾向があります。特に土地は取得当時の価格と現在の評価額に大きな乖離が生じているケースが多く、固定資産税評価額をベースに再確認する必要が生じます。株式についても同様で、実際の資産価値と帳簿上の評価が一致しないことは珍しくありません。
こうした背景から、後継者への株式移転をどのように進めるか、法人名義の土地や倉庫をどう分割するかという点で、経営者と家族の間で意見の調整が必要になります。相続や贈与の方針が固まらないまま時間が経過すると、申告期限が迫る中で判断を急ぐことになりかねません。早い段階から資産の棚卸しを行い、方針を検討しておくことが望ましいといえます。
あわせて、賃貸借契約や保険契約、借入金の保証人といった周辺の権利関係も、相続や贈与のタイミングで整理が必要になる項目です。単一の論点として捉えるのではなく、資産承継全体の設計図の中に位置づけて検討することが実務上重要になります。
実務の現場では、経営者本人がこれまでの経緯を最もよく理解している一方で、後継者や他の相続人には情報が十分に共有されていないことがあります。株式の保有割合、不動産の権利関係、保険契約の内容などは、経営者以外の家族にとって把握しづらい情報です。資産承継の検討を始める段階で、まず現状を可視化し、家族間で共有できる形に整理しておくことが出発点になります。
また、会社の業績や資産状況は年々変化するため、一度検討した承継プランをそのまま据え置くのではなく、定期的に見直す姿勢も求められます。株価や不動産価格の変動、法令改正の影響を踏まえ、数年ごとに現状を確認しながら計画を調整していくことが、実務上の望ましい進め方といえます。
加えて、承継の検討を進める中で、後継者自身の意向を確認しておくことも欠かせません。株式や不動産をどのように引き継ぐかという資産面の議論に加え、後継者が経営者としてどのような方針で会社を運営していきたいかという点も、あわせて話し合っておく必要があります。資産承継と経営承継は密接に関わっており、片方だけを整えても、もう片方が伴わなければ円滑な引き継ぎにはつながりません。
実務上は、資産承継の検討を進める過程で、会社の将来的な事業計画や新規事業の予定、設備投資の見通しなども確認しておくことが望ましいといえます。承継後の経営方針によって、必要となる資金規模や資産の配分方法も変わってくるためです。こうした情報を早い段階で整理しておくことで、税務・法務・労務それぞれの専門家が、より実態に即した提案を行いやすくなります。
非上場株式の評価方法と贈与の基本的な仕組み

非上場株式は上場株式と異なり市場価格が存在しないため、相続税や贈与税の計算にあたっては財産評価基本通達に基づく評価方法を用います。代表的な評価方式には、類似業種比準方式、純資産価額方式、そしてこれらを併用する方式があり、会社の規模や業種によって適用される方式が異なります。
純資産価額方式を採用する場合、会社が保有する土地や建物についても相続税評価額への引き直しが必要です。固定資産税評価額をそのまま流用できない点は、実務上見落とされやすいポイントです。路線価や倍率方式による評価替えを行ったうえで、会社全体の純資産価額を算出する流れになります。
贈与については、暦年課税制度のもとで基礎控除額である110万円までであれば贈与税が課されません。株価が確定していれば、この非課税枠を用いて毎年少しずつ株式を後継者へ移転する方法が広く用いられています。一株あたりの評価額が固まれば、110万円の枠内で贈与できる株数もあわせて算出できます。
ただし、暦年贈与を継続する場合には、贈与契約書の作成や株主名簿の更新、取締役会議事録などの記録を都度整えておくことが求められます。形式面の整備を怠ると、税務調査の際に贈与の事実そのものが認められない可能性があります。贈与の都度、書類を残す運用を徹底しておきたいところです。
株価の算定にあたっては、会社規模の区分によって適用される評価方式が変わる点にも留意が必要です。大会社に区分される場合は類似業種比準方式の比重が高くなり、小会社に区分される場合は純資産価額方式の比重が高くなる傾向があります。会社の規模区分は従業員数や総資産価額、取引金額などをもとに判定されるため、決算のたびに区分が変わっていないかを確認しておく必要があります。
また、株式の贈与先が複数人にわたる場合には、贈与のタイミングや対象者ごとの持株比率を計画的に管理することが望ましいといえます。特定の後継者に集中して贈与するのか、複数の親族へ分散して贈与するのかによって、将来の議決権割合や経営権の安定性が大きく変わってきます。数年をかけて段階的に贈与を進める場合には、毎年の株価変動を踏まえながら、当初の計画を柔軟に見直す姿勢も必要になります。
相続時精算課税制度との比較
暦年課税のほか、相続時精算課税制度を選択する方法もあります。この制度は累計2,500万円までの贈与について贈与税を課さず、相続発生時に相続財産へ合算して精算する仕組みです。株価が将来的に上昇すると見込まれる会社では、早期にまとまった株数を移転しておく選択肢として検討されることがあります。
一方で、一度この制度を選択すると暦年課税へ戻すことはできません。会社の将来的な成長見通しや後継者の人数、承継のスピード感に応じて、どちらの制度が適しているかを個別に判断する必要があります。
制度選択にあたっては、贈与を受ける後継者の年齢や、会社の事業計画も判断材料になります。若い後継者に早期からまとまった株式を移転し、経営への関与を深めてもらう狙いがある場合には、相続時精算課税制度が候補にあがります。逆に、複数の親族へ長期間かけて少しずつ株式を分散させたい場合には、暦年課税制度による継続的な贈与が選択されやすい傾向があります。いずれの制度を選ぶ場合も、将来の相続税額まで見据えたシミュレーションを行ったうえで判断することが実務的です。
| 比較項目 | 暦年課税制度 | 相続時精算課税制度 |
|---|---|---|
| 非課税枠 | 年間110万円 | 累計2,500万円 |
| 制度選択の可否 | 毎年選択可能 | 一度選択すると継続適用 |
| 想定される活用場面 | 長期間かけた分散贈与 | 株価上昇前の早期移転 |
| 相続時の扱い | 相続財産と切り離して完結 | 相続財産へ合算して精算 |
法人保有不動産の相続・分割における実務上の注意点

法人が保有する土地や倉庫を将来的にどう扱うかは、株式評価とあわせて検討すべき論点です。売却して現金化する方法と、生前贈与によって後継者や親族へ移転する方法とでは、税負担の構造が異なります。どちらが有利かは個別の資産状況によって変わるため、シミュレーションを行ったうえで判断することが実務的です。
築年数が経過した建物については、解体や取り壊しの時期をあわせて検討する必要があります。老朽化した家屋を分割対象に含めるかどうかで、相続人間の取り分の考え方も変わってきます。将来の解体費用や更地化後の活用方針まで視野に入れて、分割協議を進めることが望ましいといえます。
倉庫など事業用の不動産を売却する場合には、司法書士による所有権移転登記や関連する法務手続きが発生します。売却の意思決定から実際の引き渡しまでには一定の時間がかかるため、早めに専門家へ相談し、段取りを組んでおくことが重要です。
相続人間での資産分割の進め方
相続人が複数いる場合、土地や株式をどのように分けるかについて、資産全体の概算を作成したうえで話し合いを進める流れが一般的です。資産の種類ごとに評価額を整理し、分割案を複数比較検討することで、相続人間の合意形成がしやすくなります。
申告期限までに遺産分割協議が調わない場合、特例の適用に影響が生じる可能性があります。期限から逆算して、いつまでに何を決めるべきかスケジュールを共有しておくことが実務上のポイントです。
資産の分割案を検討する際には、単純に評価額だけで按分するのではなく、各相続人の生活状況や将来の意向も踏まえて調整することが一般的です。例えば、事業を引き継ぐ後継者には株式や事業用不動産を集中させ、他の相続人には金融資産や生命保険金で調整するといった方法が用いられることがあります。相続人全員が納得できる形に落とし込むためには、複数のパターンを比較しながら丁寧に協議を重ねる必要があります。
協議の過程では、各相続人の意向を早めに聞き取り、資産の概算資料をもとに複数の分割案を提示しておくことで、話し合いがスムーズに進みやすくなります。合意に至った内容は、遺産分割協議書として書面化し、後日の解釈の相違を防いでおくことも実務上のポイントです。
賃料設定と地代の見直し
法人から個人へ、あるいは個人から法人へ地代や賃料を支払っている場合、その水準が適正かどうかも相続や事業承継のタイミングで見直されることが多い項目です。扶養の範囲内に収める目的で賃料水準を調整する場合、社会保険上の扶養認定基準や税務上の適正地代の考え方を踏まえて設定します。
賃料の変更時期については、相続手続きが完了した後に契約を見直す運用がなじみやすいと考えられます。既存の契約内容を確認し、変更のタイミングと手続きをあらかじめ整理しておくと、混乱を避けやすくなります。
地代や賃料の水準を見直す際には、周辺の取引事例や固定資産税評価額をもとにした相場感を確認しておくことが実務上望ましい進め方です。極端に低い水準に設定してしまうと、税務上、経済的利益の供与とみなされる可能性が生じるため、適正な範囲に収まっているかどうかを確認しながら調整する必要があります。
保険契約や借入金など周辺の資産・負債整理

相続対策を進める中で見落とされやすいのが、火災保険や生命保険の解約返戻金の取り扱いです。解約返戻金は相続財産として課税対象になる場合があるため、契約内容と受取人の設定を確認しておく必要があります。
また、会社の借入金について経営者が個人で保証人になっている場合や、経営者から会社への個人貸付が残っている場合には、返済方法をどうするか、相続人がどこまで引き継ぐかについても事前の合意が求められます。保証債務は相続人にとって大きな負担となる可能性があるため、早めに整理の方向性を確認しておきたい項目です。
分割払いか一括返済かといった条件面についても、相続人全員の理解を得たうえで進めることで、後々の紛争を防ぐことにつながります。
保険契約については、契約者と被保険者、受取人の関係によって課税関係が異なります。法人が契約者となっている保険であっても、被保険者が経営者本人であるケースでは、解約や保険事故の発生時にどのような処理になるか、事前に確認しておくことが望ましいといえます。契約内容が複雑な場合には、保険会社への照会とあわせて、税理士による課税関係の整理を依頼しておくと安心です。
個人間の貸付金についても、返済が滞っている状態が続くと、贈与とみなされる可能性が指摘されることがあります。金銭消費貸借契約書を作成し、返済実績を残しておくことで、貸付金としての実態を明確にしておくことが実務上のポイントになります。
これらの周辺資産・負債は、株式や不動産に比べて見落とされやすい傾向があります。相続財産の概算を作成する段階で、保険証券や借用書、保証契約書などの原本を一通り確認し、リスト化しておくことで、後の手続きが円滑に進みやすくなります。
事業承継にあわせた就業規則・退職金規程の見直し

事業承継は株式や不動産といった資産の移転だけでなく、会社の組織運営そのものを見直す機会でもあります。とりわけ就業規則や退職金規程は、長年見直されないまま運用されているケースが多く、承継のタイミングで内容を点検しておくことが望ましい分野です。
兼業や副業に関する規定、休日や有給休暇の取り扱い、定年年齢の設定などは、労働関係法令の改正状況にあわせて更新が必要になることがあります。定年を65歳や70歳まで引き上げる企業も増えており、高年齢者雇用安定法の趣旨を踏まえた規程整備が求められます。
退職金規程についても、算定方法が実態と合っているかを確認しておく必要があります。古い算定方式のまま運用を続けると、実際の支給額と想定額に差が生じ、承継後の資金計画に影響する可能性があります。基本給連動型や勤続年数ポイント制など、算定方法を明文化し直すことで、将来の支給見込みを把握しやすくなります。
給与構成についても、通信費や職務手当などの各種手当を日額ベースで計算するか月額ベースで計算するか、整理し直す企業が見られます。あわせて、育児や介護と仕事の両立を支援する規定、社内行事への参加方法など、法定対応にとどまらない運用面の整備も進めておくと、承継後の従業員対応が円滑になります。
就業規則や退職金規程の見直しは、事業承継のスケジュールとあわせて進めることで、資産面の整理と組織面の整理を同時並行で行うことができます。給与体系の改定時期にあわせて規程の施行日を設定するなど、実務上のタイミング調整も重要な検討事項です。
後継者が経営を引き継いだ直後は、従業員から労働条件に関する質問や不安の声が寄せられやすい時期でもあります。就業規則や退職金規程をあらかじめ整備し、その内容を従業員へ丁寧に説明しておくことで、承継後の組織運営を安定させやすくなります。規程の改定にあたっては、労働基準監督署への届出や従業員代表からの意見聴取といった手続きも必要になるため、余裕を持ったスケジュールで進めることが望ましいといえます。
さらに、外国人労働者の雇用や、育児・介護休業の取得状況、時間外労働の管理体制なども、承継のタイミングで一度点検しておきたい項目です。労務管理の実態を可視化しておくことで、後継者が経営を引き継いだ後も、法令に沿った運用を継続しやすくなります。
過去に従業員とのトラブルが生じたことがある場合には、その経緯と対応記録を後継者へ引き継いでおくことも重要です。同様の事案が再び発生した際に、過去の対応方針を参考にできるかどうかで、対応のスピードや適切さが変わってきます。従業員のメンタルヘルスに関する休職や退職の履歴についても、個人が特定されない形で傾向を整理しておくと、職場環境の改善策を検討する際の材料になります。
非上場株式・不動産相続をめぐるよくある誤解

実務の現場では、以下のような誤解に基づいて対応が進んでしまうことがあります。あらかじめ正しい理解を持っておくことで、後の手戻りを防ぐことにつながります。誤解に気づかないまま手続きを進めてしまうと、後から評価をやり直したり、書類を再作成したりする必要が生じ、結果として時間と労力がかさむことになりかねません。
- 非上場株式は市場価格がないため評価が不要だと考えてしまう誤解。実際には財産評価基本通達に基づく計算が必要です。
- 固定資産税評価額がそのまま相続税評価額になると考える誤解。土地の評価は路線価や倍率方式による引き直しが必要です。
- 暦年贈与さえ続けていれば税務上の問題は生じないという誤解。契約書や議事録などの記録整備が伴わなければ、贈与の事実自体が否認される可能性があります。
- 生命保険の解約返戻金は相続財産に含まれないという誤解。契約内容によっては課税対象になる場合があります。
- 就業規則の見直しは事業承継と無関係だという誤解。組織運営の整備は資産承継とあわせて検討すべき項目です。
専門家へ相談するメリット

非上場株式の評価や不動産の相続・分割、就業規則の見直しといった論点は、それぞれ専門性の異なる分野にまたがっています。税理士は株式評価や贈与税・相続税の申告、司法書士は不動産の名義変更や登記手続き、社会保険労務士は就業規則や退職金規程の整備といった形で、役割を分担しながら連携することが一般的です。
専門家へ相談することで、株価算定の根拠資料や税務書類を体系的に整理でき、贈与や相続の申告にあたって必要な情報を漏れなく揃えることができます。複数の専門家が連携して対応することで、資産面と組織面の両方を見据えた承継計画を立てやすくなります。
また、相続人間の話し合いにおいても、第三者である専門家が資産の概算や分割案を提示することで、感情的な対立を避けながら合意形成を進めやすくなるという利点があります。申告期限や各種手続きの期限から逆算したスケジュール管理も、専門家に依頼することで抜け漏れを防ぎやすくなります。
行政書士や中小企業診断士といった専門家も、契約書の作成や事業承継計画の策定支援という形で関わることがあります。会社の状況に応じて、必要な専門家へ早めに相談しておくことが、承継全体を円滑に進めるうえでの近道といえます。
複数の専門家へ個別に相談すると、情報が分散し、全体像を把握しづらくなることがあります。ワンストップで相談できる体制を活用することで、税務・法務・労務の各分野を横断した対応が可能になり、相続人や後継者にとっても窓口が一本化される利点があります。定期的な打合せの機会を設け、進捗状況を確認しながら承継計画を進めていく体制づくりが、実務上望ましい進め方といえます。
初回の相談では、現状の資産構成や課題を専門家へ共有し、必要な手続きの全体像を把握することから始めるとよいでしょう。そのうえで、優先順位の高い項目から着手し、段階的に承継準備を進めていくことで、無理のないペースで対応を進めることができます。
非上場株式・不動産の承継と社内体制整備を計画的に進めるために

非上場株式の評価と贈与、法人保有不動産の相続や分割、そして就業規則や退職金規程の見直しは、一見すると別々の課題に見えますが、いずれも事業承継という一つの取り組みの中に位置づけられるものです。資産の移転方法を検討する際には、株価算定の根拠や不動産評価の考え方を整理し、周辺の保険契約や借入金の状況もあわせて確認しておくことが実務上求められます。
あわせて、組織運営の面では、就業規則や退職金規程を現状の実態に合わせて更新しておくことで、承継後も従業員が安心して働ける環境を維持しやすくなります。資産と組織の両面を並行して整理しておくことが、円滑な事業承継につながります。
事業承継は一朝一夕に完結するものではなく、数年単位での準備期間を要することが一般的です。株式評価や不動産の分割方針を固める作業と、就業規則や退職金規程の見直し作業は、それぞれ専門分野が異なるため、担当する専門家と役割分担を明確にしながら進めることが望ましいといえます。早い段階から情報を整理し、家族や後継者、専門家の間で認識を共有しておくことで、承継のプロセス全体を落ち着いて進めることができます。
非上場株式の評価や贈与、法人不動産の相続・分割、就業規則や退職金規程の見直しについて、具体的な進め方に迷う場合には、税理士法人ストラーダ、司法書士法人ストラーダ、社会保険労務士法人ストラーダへご相談ください。資産評価から申告実務、登記手続き、社内規程の整備まで、それぞれの専門分野に応じたご案内が可能です。承継準備は早く始めるほど選択肢が広がるため、まずは現状の資産状況を整理するところから、お気軽にお問い合わせいただければと思います。
事業承継のお悩みはストラーダグループへ





