ゲーム開発やソフトウェア販売を個人事業として営む方の中には、事業の成長段階で法人成りを検討する方が増えています。開発から販売までの期間が長く、収益が発生するタイミングが不規則になりやすいという業界特性があるためです。個人事業主のまま活動を続けるべきか、どの段階で法人成りするべきか、判断に迷う場面は少なくありません。
特にゲーム開発の分野では、リリース前は売上がほとんど発生しない一方、ヒット作が生まれた年には一時的に大きな収益が計上されるという波があります。このような収益構造は、所得税と法人税のどちらが有利になるかという判断を難しくします。あわせて、海外プラットフォームを通じた販売による国際取引や、海外に居住する親族との資産のやり取りが発生する場合には、相続税や贈与税の取り扱いも論点となります。この記事では、個人事業主が法人成りを検討する際の判断材料と、ゲーム開発事業に特有の税務上のポイント、海外資産に関連する贈与税の非課税制度について、実務的な観点から整理します。事業の状況は一人ひとり異なるため、あくまで一般的な考え方の整理としてご参照ください。
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個人事業主が法人成りを検討する背景
個人事業主として活動する場合、事業から生じる所得はすべて事業主本人の所得税として課税されます。所得税は累進課税であるため、所得が増えるほど税率が高くなる仕組みです。一方、法人成りした場合には法人税が課税され、税率の構造が個人と異なります。所得水準によっては、法人成りしたほうが税負担の面で有利になる場合があります。
ゲーム開発を行う場合、開発期間中は収入がほとんどなく、赤字の状態が続くことが一般的です。年間の売上が10万円から20万円台にとどまる時期が数年続き、その後リリースしたタイトルがヒットすると、一時的に売上が1億円を超えるような事例も見られます。こうした収益の波がある事業では、単年度の所得だけを見て法人成りの判断をすることは望ましくありません。数年単位での収益の見通しを踏まえて検討することが実務上のポイントです。
また、給与所得があり副業的に個人事業を営んでいるケースもあります。この場合、事業所得と給与所得が合算されて所得税が計算されるため、事業の収益が拡大した際に税負担が急激に増える可能性があります。法人成りによって事業所得を給与所得から切り離すことができれば、税負担の見通しを立てやすくなります。
会社員としての収入と事業所得を両立させる場合の留意点
会社員としての給与を得ながら個人事業を営む場合は、確定申告における所得区分の整理が重要になります。給与所得控除と事業所得の必要経費は別々に計算されるため、両方の所得を正しく把握したうえで申告することが求められます。事業からの所得がまだ小さい段階では、無理に法人成りを急ぐ必要はなく、個人事業主として基盤を固めながら収益の推移を見守るという進め方も現実的な選択肢です。
一方で、リリース予定のタイトルが控えており、将来的に大きな売上が見込まれる場合には、法人成りの準備をあらかじめ進めておくという考え方もあります。法人設立の手続きには一定の期間を要するため、売上が発生してから慌てて法人成りするのではなく、事業計画の見通しが立った段階で準備を始めておくことが実務上望ましいといえます。設立時期を早めに検討しておくことで、会計処理の切り替えや契約関係の整理にも余裕を持って対応できるようになります。
法人成りの基本的な仕組みと個人事業主との違い
法人成りとは、個人で行っていた事業を法人という別の主体に移すことを意味します。法人成りにあたっては、株式会社や合同会社といった会社形態を選択し、法人として登記を行う必要があります。株式会社は対外的な信用力が高く、資金調達や取引先からの評価という点で選ばれることが多い形態です。一方、合同会社は設立費用や運営コストを抑えられる点が特徴で、出資者の拡大や上場を予定していない事業では合理的な選択となる場合があります。
どちらの形態を選ぶかは、事業規模や将来の成長計画によって異なります。出資者を増やす予定がなく、事業の拡大ペースも緩やかに見込まれる場合には、合同会社を選択することも十分に検討に値します。一般的には株式会社が推奨される場面が多いものの、すべての事業者に一律に当てはまるわけではなく、事業の実態に応じた判断が求められます。将来的に株式会社への組織変更を行うことも制度上可能であるため、まずは合同会社で事業を始め、規模の拡大に応じて形態を見直すという進め方も選択肢の一つです。
税率構造の違い
個人の所得税は累進税率が適用され、所得が高くなるほど税率区分が上がっていきます。住民税や社会保険料の負担もあわせて考慮する必要があります。法人税は所得金額に応じた税率が定められており、一定の所得水準を超えると、個人の所得税よりも法人税のほうが税負担が軽くなります。ただし、法人成りすると法人住民税の均等割など、赤字であっても発生する固定的な負担が生じる点には留意が必要です。
あわせて、法人成りすると社会保険への加入が原則として必要になるという違いもあります。個人事業主の場合、国民健康保険と国民年金に加入するのが一般的ですが、法人成りすると代表者自身も厚生年金や健康保険への加入が求められます。社会保険料は事業主負担と本人負担に分かれるため、法人成り前と比べて事業全体で負担する保険料の総額が増える場合があります。税負担の比較だけでなく、社会保険料の変化もあわせて試算しておくことが、法人成りの判断において実務上重要な視点となります。
消費税とインボイス制度への対応
個人事業主として売上規模が一定水準を超えると、消費税の課税事業者となります。インボイス制度が導入された現在では、取引先との関係でインボイス発行事業者としての登録を検討する場面も増えています。法人成りした場合、新設法人は一定の要件のもとで消費税の免税期間が設けられており、法人成りのタイミングによって消費税の負担が変わります。この点も法人成りのタイミングを検討するうえで確認しておきたいポイントです。
新設法人の消費税免税の取り扱いは、資本金の額や事業開始時期などの要件によって適用可否が変わります。ゲーム開発のように売上が不規則な事業では、免税期間中に大きな売上が発生する可能性もあるため、法人成りの時期と想定される売上の発生時期をあわせて検討することが実務上重要です。インボイス発行事業者としての登録有無によって取引先との関係にも影響が及ぶため、販売先がどのような事業者であるかもふまえて総合的に判断する必要があります。
ゲーム開発事業における法人成りの実務上の注意点
ゲーム開発事業を法人成りする際には、いくつか特有の論点があります。ここでは代表的な注意点を整理します。
知的財産の移転方法
個人で開発したソフトウェアの著作権を法人へ移転する場合、譲渡または使用許諾のいずれかの方法を選択することになります。譲渡の場合は著作権そのものを法人に移すため、その後のライセンス収益はすべて法人の収益として計上されます。使用許諾の場合は、個人が著作権を保有したまま法人に利用を許諾し、ロイヤリティ収入を個人が受け取る形になります。どちらの方法を選ぶかによって、その後の所得の帰属先や税務上の取り扱いが変わるため、慎重な検討が必要です。
著作権の譲渡には、譲渡対価の算定という論点も伴います。個人と法人という関係性の中での取引になるため、対価が適正な水準であるかどうかが問われます。第三者間取引と同様の水準で算定することが、税務上のトラブルを避けるうえで重要です。
著作権の評価にあたっては、過去の販売実績や将来の収益見込みをもとに算定する方法が一般的です。まだリリース前の未完成タイトルについては、評価そのものが難しいという事情もあり、譲渡ではなく使用許諾契約を選択するケースも少なくありません。使用許諾契約を結ぶ場合には、ロイヤリティの料率や支払い条件をあらかじめ契約書として整備しておくことが、後々のトラブルを避けるうえで有効です。個人と法人の間の取引であっても、契約内容を明文化しておくことは実務上重要な対応といえます。
開発事業と販売事業の分離
ゲーム関連の事業では、開発を担う法人と販売を担う法人を分けて設立する事例も見られます。大手ゲーム会社の中にも、グループ内で開発機能と販売機能を分社化している例があります。事業規模がまだ小さい段階では、開発と販売を一つの法人に統合したほうが管理コストを抑えられることが多く、事業の成長段階に応じて分社化を検討するという順序が実務的です。
分社化を検討する背景には、事業ごとにリスクを分離したいという考え方や、事業ごとに異なる資金調達の方法を選びたいという事情があります。開発事業は投資回収までの期間が長く、資金繰りの見通しを立てにくい一方、販売事業は比較的安定したキャッシュフローを見込める場合があります。両者を分けて管理することで、それぞれの事業の収支を明確に把握できるという利点があります。ただし、分社化には法人ごとの事務負担や税務申告の増加という側面もあるため、事業規模に見合った体制を選ぶことが望ましいといえます。
海外売上と国際取引への対応
ゲームソフトの販売において、Steamをはじめとするデジタルディストリビューションプラットフォームやコンソールメーカーの海外拠点を通じた売上が発生することがあります。海外の事業者から受け取る収益については、源泉徴収の有無や消費税の取り扱い、租税条約の適用関係などを確認する必要があります。法人成り後は、こうした国際取引に関する経理処理がより複雑になる傾向があるため、事前に取引の流れを整理しておくことが望ましいといえます。
資金調達や補助金の活用
法人成り後は、金融機関からの融資や自治体・国の補助金を活用しやすくなる場合があります。個人事業主でも融資や補助金の対象となる制度は存在しますが、法人のほうが対象となる制度の選択肢が広がる傾向にあります。開発資金の調達を検討する場合には、法人成りのタイミングとあわせて、利用可能な融資制度や補助金制度についても情報を収集しておくとよいでしょう。事業計画書の作成や申請手続きについては、専門家のサポートを受けながら進める事業者も多く見られます。融資審査においては、決算書の内容や事業計画の実現可能性が重視されるため、法人成り後の早い段階から適切な会計処理を積み重ねておくことが、将来の資金調達をスムーズに進めるうえでも役立ちます。
海外資産に関連する相続税・贈与税の考え方
事業のグローバル化が進む中で、事業主本人や親族が海外に居住している、あるいは海外に資産を保有しているというケースも増えています。このような場合、相続税や贈与税の課税範囲がどこまで及ぶのかという点が論点になります。
贈与税の課税対象となる範囲
贈与税は、贈与を受けた人の住所地や国籍、贈与者の住所地などの要件によって、日本国内の資産だけでなく国外の資産も課税対象に含まれる場合があります。近年の税制改正により、国外に居住している親族間の贈与についても、一定の要件のもとで日本の贈与税が課税される範囲が広がっています。海外に資産を持つ親族から贈与を受ける場合には、贈与税の課税範囲を事前に確認しておくことが実務上重要です。
教育資金の贈与に関する非課税制度
祖父母や父母が孫や子の教育資金を負担する場合、一定の要件を満たせば贈与税が非課税となる取り扱いがあります。代表的なものとして、扶養義務者が生活費や教育費に充てるために必要な都度贈与する金銭については、社会通念上相当と認められる範囲であれば贈与税が課されないという考え方があります。これは教育資金の一括贈与に関する特例とは異なり、都度必要な学費等を直接支払う形での贈与を前提とした取り扱いです。
この非課税の取り扱いを受けるためには、贈与された金銭がその都度、教育費として実際に使用されることが前提となります。まとめて多額の金銭を渡し、預金として留保しておくような場合には、この非課税規定の対象とならない可能性があります。海外にいる親族から子や孫の学費を直接負担してもらう場合には、支払いの実態や資金の流れを記録しておくことが確認しておきたいポイントです。具体的な適用可否は個別の事情によって判断が分かれるため、専門家に相談しながら進めることが推奨されます。送金の履歴や学校への支払いを証明できる資料を保管しておくと、後日の確認にも対応しやすくなります。
国際相続における留意点
相続税についても、被相続人や相続人の住所、国籍などの要件により、国外財産が課税対象に含まれるかどうかが変わります。海外に不動産や金融資産を保有している場合、現地の税制と日本の相続税の両方を確認する必要があり、二重課税を避けるための外国税額控除の適用可否もあわせて検討することになります。国際的な資産を持つ方の相続対策は、国内のみで完結する事案と比べて確認すべき事項が多く、早い段階から専門家と情報を共有しておくことが望ましいといえます。
海外に居住する親族が保有する資産の内容や所在地は、時間の経過とともに把握が難しくなることがあります。資産の一覧や現地での税務上の取り扱いを定期的に整理しておくことで、将来の相続が発生した際の手続きを円滑に進めやすくなります。特に国をまたいだ資産承継では、日本国内の専門家と現地の専門家が連携して対応する必要が生じる場合もあり、早めの情報整理が実務上有効です。
法人成りに関するよくある誤解
- 法人成りすれば税負担が軽くなるという誤解です。所得水準や事業の状況によっては、法人成りによって固定費が増え、かえって負担が重くなる場合もあります。
- 法人成りと同時に個人事業を完全にやめなければならないという誤解です。事業の一部を個人事業として残し、一部を法人に移管するという選択も可能です。
- 知的財産はすべて法人に譲渡しなければならないという誤解です。著作権を個人に残したまま使用許諾契約を結ぶという方法も選択肢の一つです。
- 株式会社でなければ社会的信用が得られないという誤解です。合同会社であっても、事業実績や取引実績を積み重ねることで信用を得ることは可能です。
- 海外との取引がある場合は一律に消費税が課税されるという誤解です。輸出取引や海外の事業者向けの役務提供については、要件を満たせば消費税が免除される場合があります。
- 海外の親族からの贈与は日本の税務署に把握されないという誤解です。国外送金等調書制度などにより、一定額以上の国外送金は税務署に情報が提供される仕組みがあります。
- 教育資金を直接負担してもらえば金額の上限なく非課税になるという誤解です。非課税となるのは社会通念上相当と認められる範囲に限られ、一括贈与の特例とは適用要件が異なります。
- 法人成りすればクラウド会計ソフトでの自己管理ができなくなるという誤解です。法人成り後も、記帳や日常的な経理処理を自身で行いながら、決算や申告のみを専門家に依頼するという運用も可能です。
専門家へ相談するメリット
法人成りのタイミングや国際的な資産に関する税務は、事業の状況や家族構成によって最適な選択肢が異なります。税理士に相談することで、収益の見通しを踏まえた法人成りのタイミングの検討や、法人税・所得税のシミュレーションを行うことができます。特に収益の波が大きいゲーム開発のような業種では、複数年にわたる収支計画をもとにした助言が有効です。
また、法人成りにあたっては税務だけでなく、会社設立の手続きや登記、労務管理、契約書の整備など、複数の専門分野にまたがる対応が必要になります。税理士、司法書士、社会保険労務士、行政書士といった各分野の専門家が連携して対応できる体制であれば、設立準備から事業開始後の運用まで一貫したサポートを受けやすくなります。特に海外資産や国際相続に関する論点は、国内税制だけでなく現地の制度も踏まえた検討が必要になるため、こうした分野に知見のある専門家へ相談することが実務上有効です。
顧問契約の内容についても、事業規模や希望する対応範囲に応じて柔軟に設計することが可能です。自身でクラウド会計ソフトを用いて記帳や給与計算を行い、決算や申告のみを専門家に依頼するという形態もあれば、経理業務全般を委託する形態もあります。自身で対応できる業務と専門家に委託したい業務を整理したうえで相談すると、費用感と対応範囲のバランスがとりやすくなります。個人事業主としての確定申告と、法人成り後の税務顧問の両方に対応できる事務所であれば、法人成りの前後で相談先を変える必要がなく、継続的なサポートを受けられるという利点もあります。
相談時に準備しておきたい資料
専門家に相談する際には、直近数年分の売上や経費の推移、今後の事業計画、海外取引がある場合はその内容、保有資産の概要などを整理しておくと、より具体的な助言を受けやすくなります。数字に基づいた資料を用意しておくことで、法人成りのシミュレーションや税負担の比較検討がスムーズに進みます。複数の事務所に相談し、対応範囲やサポート体制、費用感を比較したうえで契約先を決めるという進め方も、実務上一般的に行われています。
相談先を選ぶ際には、対応可能な業務範囲や費用体系だけでなく、税理士以外の専門家との連携体制も確認しておきたいポイントです。会社設立時の登記手続きは司法書士が担当し、従業員を雇用する場合の労務手続きは社会保険労務士が担当するなど、専門分野ごとに担当が分かれることが一般的です。これらの手続きを別々の専門家に個別に依頼する場合、情報共有の手間が発生することがあります。ワンストップで対応できる体制が整っている事務所であれば、手続き全体の進行がスムーズになりやすいという利点があります。相談は一度きりで終わるものではなく、事業の進展にあわせて継続的に行っていくものと捉えておくとよいでしょう。
まとめ|収益構造と資産状況を踏まえた総合的な判断を
個人事業主の法人成りは、単に税率の比較だけで判断できるものではありません。ゲーム開発のように収益の波が大きい事業では、単年度ではなく複数年の収支見通しを踏まえて検討することが実務上のポイントになります。あわせて、知的財産の移転方法や開発・販売の事業構造、海外取引への対応など、業種特有の論点も整理しておく必要があります。
さらに、海外に居住する親族との資産のやり取りがある場合には、贈与税や相続税の課税範囲、教育資金の非課税の取り扱いといった国際的な税務論点も無視できません。これらは制度の詳細が個別の事情によって変わるため、早い段階で専門家に相談し、事実関係を整理しながら進めることが望ましいといえます。
法人成りのタイミング、会社形態の選択、税務顧問の委託範囲など、検討すべき事項は多岐にわたります。税理士をはじめとする各分野の専門家と連携しながら、自身の事業の実情に合った形を見つけていくことが、長期的に安定した事業運営につながります。事業の成長段階は時間の経過とともに変化していくため、一度決めた方針を見直す機会を定期的に設けることも、実務上有効な進め方といえます。税理士法人ストラーダでは、個人事業主の確定申告から法人設立後の税務顧問まで、事業の成長段階に応じたご相談を承っております。法人成りのタイミングや海外資産に関する税務についてお悩みの際は、税理士法人ストラーダまでお気軽にお問い合わせください。




