相続の準備を進めるにあたり、多くの方が最初に気にされるのは、相続税の申告が必要になるかどうかという点です。特に、相続財産の中にマンションなどの不動産が含まれる場合、評価額の算定方法が分かりにくく、判断に迷うケースが少なくありません。また、生前贈与を活用した相続税対策についても、近年の税制改正により持ち戻しの期間が延長されたため、以前の知識のままでは実態と異なる理解をしてしまう可能性があります。本コラムでは、相続税の基礎控除の計算方法、マンションの相続税評価額の考え方、そして生前贈与の持ち戻しルールについて、実務上の視点から整理してお伝えします。
Contents
相続税申告の要否をめぐる問題提起

相続が発生した際、相続人の方がまず確認しておきたいポイントは、相続税の申告義務があるかどうかです。相続財産の総額が一定の水準を超えない場合には、申告や納税の義務は生じません。この判断基準となるのが基礎控除額です。基礎控除額を正しく把握しないまま手続きを進めてしまうと、申告が不要な場合でも過度に身構えてしまったり、逆に申告が必要な場合に対応が遅れてしまったりすることがあります。
また、相続財産にマンションなどの不動産が含まれる場合、その評価額をどのように算定するかという点も、多くの方が疑問に感じるところです。現金や預金であれば金額がそのまま評価額になりますが、不動産の場合は独自の評価方法が用いられるため、実際の申告手続きにおいては評価額の算定根拠を明確にしておく必要があります。おおよその評価額を把握しておくことが、申告要否の判断や遺産分割の検討において重要な意味を持ちます。
さらに、相続税対策として生前贈与を検討されている方も多くいらっしゃいます。ただし、令和5年度の税制改正により、相続開始前の贈与を相続財産に加算する期間が従来の3年から7年へと延長されました。この改正内容を踏まえずに贈与を計画してしまうと、想定していた節税効果が得られない可能性があります。こうした背景から、本コラムでは相続税申告の基本的な仕組みと、実務上押さえておきたい注意点を順を追って整理します。
相続税の基礎控除額の計算方法と制度概要

基礎控除額の計算式
相続税の基礎控除額は、次の計算式で算定されます。
3,000万円+600万円×法定相続人の数という計算式が、相続税の基礎控除額を求める際の基本となります。例えば、法定相続人が3人の場合には、3,000万円に600万円×3人分の1,800万円を加えた4,800万円が基礎控除額となります。相続財産の評価額の合計が、この基礎控除額以下であれば、原則として相続税の申告及び納税義務は生じません。
ここで注意しておきたいのは、基礎控除額の計算対象となる法定相続人の数は、実際に遺産を受け取る相続人の人数と一致しない場合があるという点です。相続放棄をした方がいる場合でも、基礎控除額の計算においては、放棄がなかったものとして法定相続人の数に含めて計算します。この点は誤解が生じやすいため、確認しておきたいポイントです。
基礎控除以下の場合の実務上の取り扱い
相続財産の評価額の合計が基礎控除額以下であれば、相続税の申告義務は生じません。ただし、不動産の名義変更を行う場合には、相続税とは別に登録免許税が必要になります。登録免許税は、相続税の基礎控除とは別枠の制度であるため、相続税の申告が不要な場合であっても、不動産の相続登記に伴う費用は別途発生する点を押さえておく必要があります。
また、基礎控除額以下であることが明らかな場合でも、財産評価の根拠となる資料を整理し、必要に応じて専門家に確認しておくことは、後々のトラブルを避ける観点からも有益です。特に不動産の評価額は、算定方法によって金額に幅が生じることがあるため、慎重な判断が求められる場面もあります。
マンションの相続税評価額の実務上の注意点

固定資産税課税明細書を活用した概算方法
マンションなどの区分所有建物の相続税評価額を把握する際に、実務上よく用いられるのが固定資産税課税明細書です。毎年送付される課税明細書には、土地及び建物それぞれの評価額に関する情報が記載されています。この明細書を活用することで、相続税評価額のおおよその目安を確認することができます。
具体的には、課税明細書に記載されている価格欄のうち、最も高い金額を確認します。土地の評価額を概算する際には、この金額を0.7で割ることで、路線価に近い水準のおおよその評価額を算定することができます。これは、固定資産税評価額が公示価格のおおよそ7割程度の水準に設定されていることが多いという実務上の傾向を踏まえた目安であり、正確な評価額を保証するものではない点にご留意ください。
算定した土地の評価額に対して、対象となる区分所有部分の持分割合を乗じることで、そのマンションの土地部分に対応する評価額を按分します。一方、建物部分については、課税明細書に記載されている固定資産税評価額を、そのまま相続税評価額として参照するのが一般的な取り扱いです。
マンション評価に関する近年の実務動向
近年、タワーマンションをはじめとする区分所有建物については、市場価格と相続税評価額の乖離が指摘され、評価方法の見直しが行われています。従来の評価方法では、階数や築年数、立地条件などによって市場価格と評価額の間に大きな差が生じる場合があり、こうした差を是正する観点から、区分所有補正率という新たな指標を用いた評価方法が導入されています。評価額の算定にあたっては最新の取り扱いを確認することが、正確な申告のために重要です。物件の所在地や築年数、階数などの条件によって評価方法が異なる場合があるため、個別の物件については専門家に確認することをお勧めします。
この見直しは、主に高層階の住戸など、市場価格が固定資産税評価額を大きく上回る傾向にある物件を対象としています。すべての区分所有建物に一律の補正が適用されるわけではなく、物件ごとの条件によって補正の要否や程度が異なります。そのため、概算での確認だけでなく、詳細な評価が必要と判断される場合には、早い段階で税理士に相談しておくことが望ましいといえます。
なお、固定資産税課税明細書に記載されている情報は、市区町村役場で取得することも可能です。手元に明細書がない場合や、より詳細な評価資料が必要な場合には、不動産の所在地を管轄する市区役所や町村役場の窓口で、名寄帳や評価証明書などの資料を取得することができます。
詳細な評価や相続税計算における専門家の役割
マンションの評価額を含めた詳細な相続税額の計算については、税理士に相談することが望ましいといえます。特に、複数の不動産が相続財産に含まれる場合や、評価にあたって特殊な事情がある場合には、専門的な知見に基づく評価が必要となる場面が少なくありません。また、資料の取得については市区役所などの行政窓口、相続登記や遺産分割協議書の作成については司法書士や行政書士といった専門家がそれぞれの役割を担っています。相続財産の内容が多岐にわたる場合には、こうした複数の専門家と連携しながら進めることで、手続き全体を計画的に進めやすくなります。
証券や生前贈与に関する実務上の留意点

株式や投資信託の相続における現金化のタイミング
相続財産に株式や投資信託などの証券が含まれる場合、現金化する前後どちらの段階でも相続手続きを進めることができます。証券をそのまま相続人に承継する方法と、いったん現金化してから遺産分割を行う方法のいずれにも、それぞれの実務上の特徴があります。
証券をそのまま相続人へ移管する方法は、各相続人が引き続き運用を継続できるという利点があります。一方で、複数の相続人の間で銘柄や口数を均等に分けることが難しい場合もあり、評価額のばらつきによって公平な分割が難しくなる場面も見受けられます。この点は、相続人間で十分に話し合ったうえで、分割方針を決めておくことが望ましいといえます。
現金化してから分割する方法は、相続人間で財産を分けやすいという利点がありますが、売却によって利益が生じた場合には、譲渡所得として所得税が課される点に注意が必要です。相続税の計算においては相続開始時点の時価で評価される一方、その後の売却益については、取得価格との差額に基づいて別途所得税が課される仕組みになっています。相続税と所得税は別の制度であるという点を理解しておくことが、実務上の判断において重要です。
なお、相続税の計算に用いる証券の評価額は、相続開始日の終値や、その前後一定期間の平均値などをもとに算定される仕組みになっています。取得時期や取得価格が把握しにくい証券については、証券会社に取引履歴の開示を依頼するなどして、資料を早めに整理しておくことが実務上のポイントになります。
生前贈与の持ち戻しルールと7年ルールへの改正
生前贈与を活用した相続税対策を検討する際には、持ち戻しのルールを正しく理解しておく必要があります。相続開始前の一定期間内に行われた贈与については、相続財産に加算して相続税を計算する取り扱いがあります。この加算の対象となる期間は、令和5年度税制改正により、従来の3年から7年へと段階的に延長されることになりました。
この改正により、相続開始前7年以内に行われた贈与については、原則として相続財産に持ち戻して相続税を計算することになります。ただし、既に納付した贈与税がある場合には、その金額を相続税額から控除する取り扱いがあるため、二重に課税される仕組みにはなっていません。
持ち戻し期間の延長は段階的に適用される点も押さえておきたいポイントです。令和6年1月1日以後に行われた贈与から新しいルールの対象となり、実際に7年間の持ち戻し期間が適用されるまでには一定の移行期間が設けられています。そのため、贈与を行った時期によって、持ち戻しの対象となる期間の考え方が異なる場合があります。改正の適用時期については個別に確認しておくことが、正確な計算のために欠かせません。
ここで誤解が生じやすいポイントとして挙げられるのが、年間110万円以下の贈与についての取り扱いです。年間110万円以下の贈与は贈与税が課されないため、対策として活用されることが多いのですが、相続開始前7年以内に行われたものであれば、金額の多寡にかかわらず持ち戻しの対象になります。したがって、単に贈与額を分割して複数年にわたって行うだけでは、相続開始直前の期間については持ち戻しの対象から外れないため、期待した節税効果が得られない場合がある点に留意が必要です。
相続人以外への贈与を活用した財産圧縮
持ち戻しの対象となるのは、相続や遺贈によって財産を取得する方への贈与が中心です。そのため、お孫さんなど相続人に該当しない方への贈与については、持ち戻しの対象とならない場合があります。こうした非課税枠を活用した贈与は、相続財産の圧縮を検討する際の選択肢のひとつとして位置づけられます。ただし、贈与の内容や受贈者との関係性によって取り扱いが異なる場合があるため、具体的な実行にあたっては税理士に相談し、個別の状況に応じた確認を行うことをお勧めします。
遺言書と遺産分割協議に関するよくある誤解

相続手続きに関しては、実務上の取り扱いと異なるイメージを持たれているケースが少なくありません。よくある誤解として、次のような点が挙げられます。
- 遺言書がなければ相続手続きを進められないという誤解
- 基礎控除以下であれば財産の把握や資料整理が不要という誤解
- 110万円以下の贈与を分けて行えば持ち戻しの対象から常に外れるという誤解
- マイナンバーを取得していなければ相続手続きが一切できないという誤解
こうした誤解は、制度の一部分だけが伝わり、全体像が正しく共有されていないことから生じる場合があります。それぞれの実務上の取り扱いについて、以下で順に整理します。
マイナンバー未取得や海外居住者の相続手続き
相続人の中に、マイナンバーを取得していない方や、海外に居住されている方が含まれるケースも実務上珍しくありません。特に、日本国籍を有しながら長期間海外で生活されている方の場合、住民票が日本国内にないため、マイナンバーが発行されていないという状況が生じます。
マイナンバーを取得していない場合でも、相続税の申告手続きを進めること自体は実務上可能です。ただし、通常の手続きと比べて、多少の制約が生じたり、追加の証明書類の提出が求められたりする可能性があります。例えば、本人確認書類として、通常はマイナンバーカードや通知カードが用いられる場面において、海外に居住されている方の場合はパスポートや在留証明などの代替書類で対応することになります。
また、海外に居住されている相続人が日本国内に資産をほとんど有していない場合には、その方自身の国内での税務上の申告義務については、基本的に大きな問題が生じないケースが多いといえます。ただし、個々の事情によって取り扱いが異なるため、具体的な状況については税理士に確認しておくことをお勧めします。
遺言書がない場合の遺産分割の進め方
遺言書が残されていない場合でも、相続人全員による遺産分割協議を行い、協議書を作成することで相続手続きを進めることができます。遺言書がなければ相続手続きが進められないという誤解を持たれている方も少なくありませんが、実際には相続人間の合意に基づいて分割方法を定めることが可能です。遺産分割協議書には、相続人全員の署名と実印による押印、そして印鑑証明書の添付が必要となります。
協議書を作成する際には、対象となる財産の内容を財産目録として明確に記載しておくことが望ましいといえます。財産の範囲や評価方法について相続人間で認識の齟齬が生じると、後になって協議のやり直しが必要になる場合もあるため、早い段階で財産の全体像を整理しておくことが実務上のポイントになります。
自筆証書遺言の形式要件と保管制度
遺言書を作成する場合には、自筆証書遺言と公正証書遺言という二つの主な方式があります。自筆証書遺言は、遺言者自身が全文を自書する必要があるなど、一定の形式要件を満たす必要があります。形式に不備があると、遺言そのものが無効と判断される場合があるため、専門家による内容確認を受けておくことが望ましいといえます。
自筆証書遺言については、法務局における保管制度を利用することで、紛失や改ざんのリスクを軽減することができます。一方、公正証書遺言は、公証役場において公証人の関与のもとで作成されるため、形式面での不備が生じにくいという特徴があります。それぞれの方式には特徴があるため、ご自身の状況に応じて、司法書士や行政書士、公証役場などに相談しながら検討することをお勧めします。
報酬に関する一般的な目安
遺言書の作成support等を専門家に依頼する場合の報酬は、依頼内容や事務所によって異なりますが、一般的な目安として、自筆証書遺言の作成support3万円程度から、公正証書遺言の作成support5万円程度からという水準が多く見られます。実際の費用は、財産の内容や相続人の人数、依頼する業務の範囲によって変動するため、事前に見積もりを確認しておくことをお勧めします。
専門家へ相談するメリットと相談窓口の整理

相続手続きに関わる専門家の役割分担
相続に関する手続きは、内容によって相談すべき専門家が異なります。以下に、実務上の役割分担を整理します。
| 相談内容 | 主な相談先 |
|---|---|
| 財産評価・相続税の計算・申告 | 税理士 |
| 固定資産税課税明細書等の資料取得 | 市区町村役場 |
| 相続登記・遺産分割協議書の作成support | 司法書士 |
| 各種許認可・遺言書関連書類の作成support | 行政書士 |
| 公正証書遺言の作成 | 公証役場 |
それぞれの専門家は、担当する分野において専門的な知見を有しています。相続手続きは複数の分野にまたがることが多いため、状況に応じて複数の専門家と連携しながら進めることが、円滑な手続きにつながります。窓口を一本化して相談できる事務所であれば、複数の専門家との調整を依頼者自身が行う手間も軽減されます。
専門家に相談するメリット
相続税の申告や不動産の評価、遺産分割協議書の作成といった手続きは、専門的な知識を要する場面が少なくありません。ご自身で対応することも制度上は可能ですが、評価方法の選択や書類の記載内容によって、後の手続きに影響が及ぶ場合があります。専門家に相談することで、個別の事情に応じた適切な対応方法を確認できる点は、大きなメリットといえます。
特に、相続人が海外に居住されている場合や、マイナンバーを取得していない場合など、通常とは異なる事情がある案件については、実務上の対応に一定の工夫が求められることがあります。こうしたケースでは、多少の制約や追加の書面が必要になる可能性はあるものの、実務上は対応が可能な場合が多く、専門家に早めに相談することで、手続きの見通しを立てやすくなります。相続人の構成や資産の内容を早い段階で整理し、必要な資料を洗い出しておくことが、手続き全体をスムーズに進める上での基本になります。
相談内容に応じた費用感の確認
専門家への相談は、内容によって費用体系が異なります。継続的な顧問契約を前提とする相談もあれば、スポットでの相談に対応している事務所もあります。具体的な費用については事前に確認しておくことが、安心して相談を進めるうえで重要です。追加の相談が必要になった場合の費用体系についても、あらかじめ確認しておくと、その後のやり取りがスムーズに進みます。
相続税申告における基本方針のまとめ

相続税の申告要否を判断するうえでは、まず基礎控除額を正しく把握することが出発点となります。3,000万円に600万円×法定相続人の数を加えた金額が基礎控除額であり、相続財産の評価額の合計がこの金額以下であれば、原則として申告義務は生じません。ただし、不動産の名義変更に伴う登録免許税は別途必要になる点は押さえておきたいポイントです。また、相続放棄をした方がいる場合でも、基礎控除額の計算上は法定相続人の数に含める点も、実務上見落とされやすい部分です。
マンションなどの不動産の評価額については、固定資産税課税明細書を活用することで、おおよその水準を把握することができます。土地部分は課税明細書の価格を0.7で割って概算し、建物部分は明細書の評価額をそのまま参照するというのが、実務上よく用いられる目安です。ただし、これはあくまで概算であり、正確な評価額の算定には税理士による確認が推奨されます。
生前贈与を活用した対策を検討する際には、令和5年度税制改正による持ち戻し期間の延長を踏まえた計画が必要です。相続開始前7年以内の贈与は、金額の多寡にかかわらず持ち戻しの対象になり得るため、単純な分割贈与だけに頼らない、多角的な検討が求められます。相続人以外への贈与の活用など、状況に応じた選択肢を専門家と相談しながら整理することが望ましいといえます。
相続に関する手続きは、財産の内容やご家族の状況によって最適な対応が異なります。税理士法人ストラーダでは、相続税の申告や財産評価に関するご相談を承っております。マンションの評価額の確認方法や、生前贈与を活用した対策の検討など、実務に基づいた具体的なご案内が可能です。相続手続きに関して疑問や不安を感じられている方は、早めに専門家へご相談いただくことをお勧めします。相続は多くの方にとって初めて経験する手続きであり、わからないことがあって当然です。一つひとつ整理しながら進めていくことで、ご家族にとって納得のいく相続を実現していただければと考えております。
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